世界の○○~記憶に残る異国の一皿~
速射砲のように飛んでいく錦糸玉子|世界の和食②

速射砲のように飛んでいく錦糸玉子|世界の和食②

海外で和食レストランというと、日本では考えられないパフォーマンスをする店の話が多いと言います。石田さんが遭遇した驚愕の料理パフォーマンスとはーー。

「技」を魅せる和食?

前回書いたとおり、中華料理店は世界中にある。しかもだいたいちゃんと中国人が調理している。彼らはどこにでもいる。世界中にコミュニティがある。また韓国料理店も海外には多いが、やはり韓国人がつくっているように見えた。
対して日本食レストランは、「あ、これは違うな」と思う店がやたらと目についたのだ。
ケニアの日本食レストランでは、案内された席に着くと、銅鑼がドーンと鳴らされた。
「あ、違うな」と思いながら、きつねうどんと親子丼を頼んだ。
きつねうどんは“背脂チャッチャ系ラーメン”のように天かすが麺をすっかり覆っており、ごま油が強烈に香った。親子丼は熱々の石の器に入ってスプーンと供され、やはりごま油が香る。給仕に訊くと、経営者も調理人も韓国人とのことだった。

ベルギーでは友人家族の家に居候したのだが、ある日、日本食レストランに誘われた。行ったことがないから案内してほしいと友人がいう。
「サムライ」という名の鉄板焼き店だった。
油で服が汚れないようにと、半纏を着せられた。浮世絵と桜吹雪があしらわれた派手な柄で、「あ、違うな」と思った。訊けば、経営者も調理人も中国人らしい。
“料理ショー”は曲芸の連続だった。調理人はリズミカルに鉄板をヘラで打ち、電光石火の早業で具材を切り、踊りながら鉄板の上で食材を混ぜ、大型のペッパーミルをジャグリングしながら塩や黒胡椒をかける。
意外にも、というと失礼だが、味はよかった。だが料理より、技のほうにばかり意識が向いた。ジャグリングなんかはストリートでやれば盛大に人を集めそうなレベルだ。ニューヨークの「ベニハナ」の調理シーンをテレビで観たことがあるが、あれよりもっとショー化されているんじゃないだろうか。
〆の焼きそばでは、炒めた麺と野菜を、客席側の鉄板の端、つまり僕らの目の前に置き、次いで、卵をいちいち空中に放り投げながら、鉄板のもう一方の端、調理人の手前に割って落としていく。薄焼き玉子ができたら、2枚のヘラを両手で太鼓の早打ちのように鉄板に叩き付ける。ヘラで切られた薄焼き玉子は、“錦糸玉子”になって、ダダダダと速射砲のように飛んでいき、僕らの目の前の焼きそばの上に積み上がっていく。
「これが日本料理か……」と友人が言うので、「こんなのは見たことがない」と明確に否定しておいた。


――つづく。

文・写真:石田ゆうすけ

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。