赤褐色の厚い殻に覆われたホヤ。あなたはお好きですか?見た目はグロテスクだけれど、日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介。
ホヤは大好き派と大嫌い派にはっきりと別れる。どっちでもないという人はあまりいない。それだけホヤの風味は個性が強いといえるが、大嫌い派を生むのはその鮮度が大きく左右している。
大嫌い派には、都会で鮮度の悪い強烈に磯臭いものを食べてしまって辟易したという人が多いのだ。そんな彼らとホヤの産地である三陸海岸を旅行して、水揚げしたばかりのホヤを無理やり食べさせると、「こんなにうまいものだったとは」と、たいていはあっさりと大好き派に転向してしまう。それでもやっぱり、そのクセのある味と匂いに閉口して、以降も遠慮し続ける人も少なからずいる。ホヤとはそういうものなのだ。
にぎりこぶし大で赤褐色の厚い殻に覆われ、その殻からは角のような突起が突き出ている。この形から“海のパイナップル”と呼ぶ人もいる。ホヤは脊索動物のひとつの尾索動物に分類され、われわれ脊椎動物の起源と進化を探るうえで貴重な存在だともいわれている。奇怪な姿形も、原始の姿と思えば愛おしい。
ホヤは酢のもので多く食べられるが、ホヤを特産とする宮城県の歌津町のある浜では“ホヤの炊き込みごはん”が食べられている。炊きたてを茶碗に盛ると、ごはんの甘い香りとあいまって、どこか人の気持ちをほっとさせる
日本全国の町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。
文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏