よく聞くけど実はよくわかっていない食に関わる知識ってありますよね。よく聞く言葉だけに今さら人に聞くのは恥ずかしい。そんな基礎知識を解説します。
書籍をあたると、少々は「親指と人差し指でつまんだ量」、ひとつまみは「そこに中指を加えた3本指でつまんだ量」の記述が多い。だが、辻調理師専門学校教員の濱本良司先生に伺うと「両方、少量を指す言葉、明確な区別は難しい」という。
料理研究家によっても、考え方はそれぞれ。たとえば大庭英子さんは「ひとつまみという表記は、わかりにくいので使いません。少々は、しっかり調味するのでなく、下味や仕上げにミルで数回ふる……そんな感覚でレシピに表記しています」。
また、故小林カツ代さんは笑いながら「塩少々は、お葬式の“お焼香のように”パラパラふれば絶対に失敗しませんよ」と語っていた。
要するに、どちらも「小さじを使っても、正確に計量できないような微量」に使う用語ということだ。
「適量」は、この材料(調味料)は必ず入れてほしいが、どれくらい入れるかに関しては、つくり手におまかせしますよ、という意味。一方、「適宜」は、この材料はあってもなくても構いません。どうぞお好みで加えてください、という意味。
必ず入れるものと、なくてもいいもの。しっかり覚えて区別したい。
「色と塩味の濃さ、これが大きな違いです」と濱本先生。
日本の醤油生産量の8割以上を占めるのが、濃口醤油。レシピに「醤油」とある場合、濃口を指していると思ってよい。長時間かけて発酵させるため、色が濃く、しっかりした香りと旨味を持った醤油になる。
うす口醤油は、淡口醤油とも呼ばれる通り、見た目は濃口よりも淡い色合い。しかしその見た目に反して、塩分は濃口より2%ほど高く、実はしょっぱめだ。「塩分を濃くすることで、発酵の進行を抑えて淡い色に仕上げているんです」。発酵させる期間も短いため、香りと旨味は、濃口よりも弱い。「濃口は関東、うす口は関西で主に使われます」という事実は、双方のうどんつゆの色を比べると歴然。これには、だし文化が関係している。
関東は、パンチある風味の鰹だし文化圏。香り高い濃口とは好相性で、逆にうす口では、だしとのバランスが悪く味がのらない。
一方、関西といえば、昆布だし文化圏。上品な昆布の風味には、ほのかな香りのうす口を使うほうが、だしの風味を邪魔せずに調味できるというわけだ。
濃口を料理に使う場合は、魚の煮つけや、照り焼きの“タレ”に。砂糖や味醂など、他の調味料も使い茶色く仕上げる「味も色もしっかりめ」な料理に適している。
うす口はお吸い物や、野菜の煮物に。おだしは透き通った淡い色に仕上がるし、大根などの食材は白く、美しく炊き上がる。
「私自身、使用する回数が多いのはうす口ですが、使っている総量では、濃口のほうが多いですね」
“たっぷり使ってしっかり効かせる”のが濃口、“ちょっぴり使ってほのかに効かせる”のがうす口。特質を知り、適材適所で使いこなそう。
文:森田彩子 イラスト:かざまりさ 協力:辻調理師専門学校 濱本良司先生、大庭英子さん
※この記事の内容は2018年2月号に掲載したものです。