青春18きっぷで東京から大阪へ向かう。沼津で途中下車して、早2時間45分。そろそろ駅へと思いながらも、おっさんたちは逆方向へと歩き出す。何かおもしろいことないかなと、歩いて探す出会い系。そこで、あぁ出会っちゃった。ガラスケースに並ぶハムフライにコロッケに、子どもの頃の買い食い気分でどきどき&わくわく。
沼津の「中央亭」で大粒餃子を10個食べたら、完全に満腹になってしまった。腹に隙間ができるのを待つ間、列車に乗って少しでも大阪に近づいておこうか――と思ったものの、店を出ると、どうも町が気になる。昭和風情がそこはかとなく漂っている。
「ちょっと歩いていいですか?」
編集担当のエベに訊いてみた。エベは痛風の痛みから、今朝の東京駅では狂言師のようにそろりそろりと歩いていたのだ。
「大丈夫です。だいぶよくなってきました。今日は歩けそうです」
エベはそう言って、ポケットから靴紐を取り出し、スニーカーの7つある鳩目(紐を通す穴)のうち、爪先側のふたつの穴に紐を通した。足の腫れが少しずつ引いてきたらしい。
歩き始めると、ものの1分ほどで気になる物件が現れた。古そうな喫茶店だ。
喫茶店の入口は通路の奥にあった。うわあ、骨董のような“すりガラス扉”だ。昔の診療所みたいだ。ますます気になるなあ。
でもこの調子だと、まだまだ“お宝”はありそうだな。もう少し探してから決めよう。
歩き始めると、再び1分ほどで現れた。
なんかたまらないな、この店の感じ。自分が子どもだった頃の空気がにじみ出ているようだ。
時間が止まっているのは、外観だけじゃなかった。近づいてみると、揚げ物や総菜パンが売られていて、ハムカツがなんと30円!
まるで駄菓子だ。……あ、そっか。この値段だから、きっといまの子どもたちも学校帰りに寄って、買い食いしているんだ。店がその空気に彩られているから、自分の少年時代と重なったんだ。
餃子の「中央亭」から歩き始めて約2分。まだお腹は全然減っていなかった。でもノスタルジーの引力には抗えず、「ハムフライ」を1枚頼む。
かじると、ガリッと衣の砕ける音。小気味よい歯ごたえに、ハムの味。……あれ?
なんか……意外だった。値段からして、味には多くを期待していなかったのに、ちょっと癖になりそうな旨さだ。
「ハムフライ30円」という値札に食いついてしまったが、よく見ると隣の総菜パンもすごい。コロッケサンド160円、メンチカツサンド210円、カツサンド260円……なんだろう、この「甘いたれ」というのは。
――つづく。
文:石田ゆうすけ 写真:阪本勇