東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師、神林桂一さんによる浅草エリアのランチ案内です。自作ミニコミに、足で探し、食べて選んだ「浅草ランチ・ベスト100丼」を選出。第4軒目は肉料理部門から「焼肉でランチ」を紹介します。
焼肉は、今や日本を代表する国民食のひとつだ。朝鮮半島からの直輸入ではなく、日本で生まれたものだが、戦前に朝鮮人によって食べられ始めたホルモン焼が起源だといわれる(プルコギから発展したものではない)。
戦後生まれたホルモン焼屋の元祖は、川崎「美星屋」・大阪「とさや」だという(佐々木道雄『焼肉の誕生』雄山閣)。
東京都港区の芝浦屠場に近い泉岳寺の運河沿いバラック長屋にあった「やまや食堂」は1940年頃から客への提供を始めた都内最古のホルモン焼屋だったが、2013年2月に閉店。初期の焼肉史に残る名店だ。そして、この一帯も2015年には山手線新駅建設に伴い、解体されてしまった。一方、最古の焼肉店は新宿「明月館」だといわれている(宮塚利雄『日本焼肉物語』太田出版)。
最近の焼肉は「○○牛A5ランク」「希少部位」「ザブトン・ミスジ・トモサンカク」などの用語が飛び交い、高級路線が主流となっている。
「食べログ・浅草焼肉人気ランキングTOP20」を見ると、2位の肉の仲卸直営店である「肉のすずき」、8位「焼肉BEAST」は僕も好きな店だ。
しかし、なんといっても浅草の焼肉は大衆店が素晴らしい!
1位は「本とさや」、3位に「金楽」が入っている。そして、これから紹介する「焼肉横丁」からも5位「大福園」、7位「大成苑」、9位「金燈園(きんとうえん)」、20位「大和」がランクイン。
グルメサイト「favy」は「町中華」に対抗して、レトロで味のある佇まいが魅力の地域に根づいた焼肉屋を「街焼肉」と呼ぶことを提唱し、焼肉横丁「大福園」「大成苑」、東上野コリアンタウン(キムチ横丁)「東京苑」などを紹介している。
(宮塚利雄『日本焼肉物語』太田出版)。
浅草にも戦後の闇市が起源のコリアンタウンが2ヶ所ある。ひとつ目は、ご存じ「ホッピー通り」(正式には公園本通り)。僕の若い頃には激安の穴場だったが、今はすっかり観光地化してしまった(値段も観光料金)。
もうひとつが、知る人ぞ知る通称「焼肉横丁」(国際通り飲食組合)だ。もとは「国際マーケット」と呼ばれた闇市で、国際通りとひさご通りに挟まれた地区の幅2mほどの路地に焼肉屋が密集している。
以前は20軒ほどあったが、今は12軒。
どこも家族経営のため、後継者不足で減ってしまったのだとか。
僕はその半分の6軒に行っている。
個性的な店が集まり、皆それぞれの行きつけを持つなか、僕のイチオシは1964年(前の東京オリンピックの年)開店の「金燈園」。以前は青山にも支店があった実力店だ(再開発で閉店)。6年ほど前までは24時間営業だったが、今でも朝10時から焼肉が食べられ、西原正浩さん、韓正和さん兄弟が店を守っている。
「金燈園」は偉い。庶民の味方だ。
ランチ定食は無いが、一皿800円・1,000円が中心。外税なので消費税分の値段は上がっているが、卓上のメニューが変色するほど、ず~っと前から定価はすえ置き。
経営努力に加えて、50年以上付き合いのある業者が協力してくれているからでもある。
キムチやナムルの小皿がサービスで付くのも嬉しい。
ランチ利用にピッタリだ。
「金燈園」は旨い。
ホルモンも精肉も、業者との信頼関係で優先的に上質の肉を回してくれると聞く。
それに、ウナギのタレのように創業以来50年以上継ぎ足してきているタレが絶品!
長い年月が培った味というものは、昨日今日の店には決してマネできない。
「金燈園」は渋い。
歴史を感じさせる店構えに、燻された店内。
そして、昔ながらの煙モクモクの卓上ガスコンロ。無煙ロースターとはムエンだ。
雰囲気も、煙も、味のうちである。生マッコリも最高だ。
僕のオススメは、数量限定の「和牛 中落ちカルビ」。
このレベルの肉が1,100円で食べられるなんて幸せだ。
次に名物「プラチナポーク」。脂が甘い白金豚カルビが880円だ。
「ホルモン三色盛り(レバー・ハツ・子袋)」880円は、新鮮なモツが神々しく光り輝いている。
たまには高級店もいい。しかし、ここには毎日通える焼肉屋がある。「焼肉横丁」のことは知らない方々も多いだろう。
一見(いちげん)さんだと、店にも、いや路地自体にも入りにくいかもしれない。
しかし勇気を出して一歩を踏み出してほしい。そこには至福の時間が用意されているのだから……。
どうです、ここを知らない人は人生で損をしていますよ!
そうそう、ほとんどの店が火曜休みなのでご注意を。
文:神林桂一 写真:萬田康文