森下くるみさんの連載3回目は、女も立たす角打ちへ。阿佐ヶ谷パールセンターにある「酒ノみつや」には、裏がある。そりゃ、そうだ。表があれば裏はあるもんね。表で酒を物色したら、冷蔵庫の間を通り抜けて、奥へ奥へ。狭い通路の先には、裏の世界が待っていた。
わたしの住んでいる駅は両隣の駅より規模が小さく、人の行き交う様子も静かだ。しかし駅から徒歩3分圏内に、焼き鳥屋やワインバルなど、「立ち飲み形式で飲めるお店」が5軒ある。いずれもこの3~4年にできた新店だ。
小ぢんまりとした街の駅周辺に5軒は多いと思うけれど、個人的にはとてもうれしい。はしご酒、ひとり飲み、せんべろなど、飲みワードが次々と拡散、共有され、各地域で催される街なかバル(バル街というチケット制の飲み歩きイベント)の人気が定着しつつある中で、立ち飲み屋の認知度が高い、ということなのだろう。10年前は、「ひとりで立ち飲み屋で飲むのは渋いけど、中年のおじさんだらけなんでしょう」なんて不思議がられたものだが、街も人も店もどんどん変化していく。
では、角打ちはどうだろう。かくうち、と読む。ざっくりいえば、酒屋で販売しているカップ酒やビールなどをレジで購入し、酒屋内に設置されたスペースで飲むのが角打ちだ。つまみはオイルサーディンなどの缶詰類、魚肉ソーセージ、乾き物や小わけのスナック菓子に至るまで店により様々である。
酒屋の一角で飲むことを覚えたのは京都・錦市場の端にある「松川酒店」だった。店に入り、配膳のときに使うようなデカい銀の盆を積まれたビールケースの上に置く。グラスも箸も一ヶ所に用意されているので、そこまで自分で取りにいく。ショーケースに並んだ飲み物を各々で取り出し、銀の盆のスペースで立ち飲みを始めるのだ。
この「酒屋の一角で」というラフな飲み方にはまり、東京でも出来る場所がないか調べてみると、予想以上に大量の情報が出てきた。そのひとつが阿佐ヶ谷駅のパールセンター奥にある「酒ノみつや」だった。
日本酒やワインそのほかの酒瓶がバリケードのごとく並ぶ普通の酒屋さんである。何も知らなければここで立ち飲みができるとは思わないだろう。
まずは入店。レジでお酒を買うことからスタートする。購入後はお酒を片手に商品棚の間を抜けて、奥にある角打ちスペースへ。
――明日へつづく。
文:森下くるみ 写真:金子山