角打ちで寿司。目の前で、職人が握っている。表の酒屋の冷蔵庫には酒が売るほどあって、選り取り見取り。なんとも贅沢な空間に身を置きながら、飲む。食べる。飲む。食べる。さくっと一杯のつもりが今日もついつい飲み過ぎ、食べ過ぎ。角打ちだろうが、立ち飲みだろうが、酒飲みの夜は終わりません。
レジ上部に、短冊状の紙に書かれたメニューがぶら下がっている。日本酒の顔ぶれは常に変わるので、何を飲むかはその日の出会い次第といったところ。
「THE GANG」(400円均一)【ここでしか買えない。】
良い誘い文句だ。あ、じゃあせっかくなのでそれを……となる。実はこちらは「酒ノみつや」さんプロデュースの日本酒なのである。
わたしは生まれが秋田なもので、キリっとした飲み口で後味さっぱり、それでいて丸みのあるまろやかな風味の日本酒が好みだし、つい「辛口がいい」と口走ってしまうのだけれど、「酒ノみつや」さんに並ぶのはさっぱり方面でなく、ひと口目からつんとくる、甘味の強い日本酒が多い印象だ(白ワインはやたらとさっぱりしていたが)。
この日、初めて飲んだ「THE GANG」も濃い口で、「長野・無濾過原酒」は時間が経つにつれ味が変化し、しばらくすると酒にふくよかさが出てくる。注文したつまみの定番・黒酢にんにくとメンマを横目に、つい「焼き鳥が食べたい」などと邪なことを考えてしまった。
しかし、この日は角打ちスペースにて立ち食い寿司の出店があるのだ。17時過ぎ、出張専門「早川寿司」さんの仕込みは黙々と続いていた。
18時になってお寿司の注文が始まると、わたしたちを含め数名のお客がメニューボードを凝視、「握り5貫+おつまみ1品=1000円」のセットが売れ始めた。
握りはおまかせで、2皿頼むとそれぞれネタが被らないよう提供してもらえる。赤い酢飯をきゅっと包んだ寿司ネタには煮きりが塗られているので、あとは早めに口へ入れ無心で噛みしめたい。
コクの濃縮されたサワラなめろう、しっとりした食感のマグロの肉味噌、極めて上品なホッキひも醤油煮……1品がもう1品を呼ぶ。
合間に、セルフサービスのガリをつまむ。飲み物を追加して、葉ガツオを追加で注文。空のグラスを手にレジへ行き、別の日本酒を購入、とやっていたら、あっという間に2時間ほど経ってしまった。長っ尻である。頭上の張り紙で、「二時間以内に御退店下さい」「混雑してきたら新しい客に席を譲りましょう」と注意喚起されている。気づけば各テーブルは超満員、角打ちスペースをはみ出し、食器返却スペース付近の空き棚にコップを置いて飲んでいる若い人がいるではないか。いや申し訳ないことをした。
お腹から何からすべて満たされたわたしはご機嫌だった。ほろ酔いにまかせ、冷蔵ショーケース下段に鎮座する一升瓶の3倍はありそうな巨大瓶ビールに驚いたり、秋田の地酒「雪の茅舎」が売られていることに喜んだりして、帰り際、店頭に並んだ2本987円のアフリカワイン赤・白を購入した。
次回は平日の明るい時間帯に来て、ほんの1、2杯、できれば30分ほどの滞在で切り上げたいものだ。
――つづく。
文:森下くるみ 写真:金子山