東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師、神林桂一さんによる浅草エリアのランチ案内です。自身がつくるミニコミに、足で探し、食べて選んだ「浅草ランチ・ベスト100丼」を選出。第2軒目は麺類部門から“ロメスパ”の紹介です。
麺類の2軒目はスパゲッティ、それも「ロメスパ」だ。ロメスパとは何かを知るには、まず「路麺」について語る必要がある。
路麺とは「路傍の麺」の略で、大手チェーンではない立ち食いそばのことを指すネット生まれの言葉だ。「立ち食い」と言いながら椅子を導入する店が主流となってきているなか、都合のいい、気の利いた呼び名だと思う。実は、僕は麺類の中では最も頻繁にお世話になっており、チェーンも含めると今までに153軒食べている。
そんな僕が選ぶ「浅草・路麺四天王」は次の通りだ(残念ながら酒類は置いていない)。
① 千束「山田屋」:「ランチ・ベスト100」に選出。ゲソ天最高峰。細うどんやきしめんもある。
② 千束「ねぎどん」:店名は「根岸さんがつくるうどん」の略。そばは手打ち。「山田屋」と人気を二分。
③ 三ノ輪「峠の蕎麦」:信州から取り寄せる生そばを使用・そばと牛スジどて煮丼のセットが人気。
④ 浅草「文殊」:浅草地下街入口の椅子も壁もないリアル立ち食い・両国に本店。
本題に戻り「ロメスパ」だが、これはご想像の通り「路麺のスパゲッティ」だ。注意すべきは、あくまで「スパゲッティ」であって「パスタ」ではないということ。イタリアにはスパゲッティの他に、太さによってカッペリーニ、フェデリーニ、スパゲッティーニといった種類があることは、もちろん知っている。
だが、ここで「昭和からのスパゲッティマニア」(以後「スパゲッティオヤジ」)が言わんとしているのは、80年代後半・バブル期の「イタ飯」ブームで広まった「アルデンテ」のパスタではなく、戦後日本発祥のゆで置き麺を炒める「ナポリタン」などのスパゲッティのことだ。スパゲッティオヤジの時代には、洋食店でも喫茶店でもスパゲッティと言えばこれだった。
ロメスパは、この伝統を守りつつ進化した東京発祥の「ご当地麺」であるといっていいだろう。ロメスパの定義は次の3点だ。
① ゆで置きスパゲティをフライパンで炒めて提供する。待ち時間の短縮という面もあるが、手抜きではなく、独特のモチモチ感を出すためにわざとそうしているのだ。
② 極太麺を使用する。ボリューム満点。細麺では物足りない。
③ デカ盛りが可能なこと。麺の量が増えても、提供時間に差は出ないため。
ロメスパは9軒食べているが、ロメスパの横綱(残念ながら酒類は置いていない)と言われるのは次の2店だ。
① 大手町「リトル小岩井」:1972年創業・元祖ロメスパ・女性はほとんど持ち帰り
② 有楽町「ジャポネ」:1980年創業・ロメスパの聖地・ほぼ男性客・350g~1,100g
「カルボ」は2010年開業。2017年には雷門1丁目に2号店を出した。オーセンティックバーの浅草「FOS」(2001年開店)も手掛ける森崇浩(たかひろ)さんがオーナーだ。観音裏の古民家バーとロメスパ。懐の深い人物だ。
メニューは、カルボ、ミート、ナポリ、ミカド(和風)、月替わりの5種類。レギュラーの4種にはいずれも隠し味に醤油が使われている。
量は、小200g、中400g、大600gが基本で、通称「山」の1,000gまで選べる(ちなみに乾麺1束100gをゆでると240gだが、同じ重さに対してゆで置きの方が麺量は多い)。
ゆで麺に油を絡ませ、1日置いて、よりモチモチ感を出している。
「カルボ」には、他のロメスパと違うスパゲッティオヤジ絶賛の個性が5つある。
『あいうえお作文』
【カ】「カルボナーラをメインに」。
他店では珍しい。炒めると玉子がダマになってしまいがちなのだが、独自に研究を重ねてそれを解消した断トツの人気メニューだ。
【ル】「ルーテイン(決まった手順)は『焦がす』こと」。
【ボ】「ボン!と豪快にトッピング」。
粉チーズ、焼きマヨ、味玉、バラ豚(とん)など、ラーメン屋のようにトッピングが豊富な点。イタリアでは一般的な「モーリカ」をアレンジした「チーズパン粉」も卓上に常備されている。
【ス】「スパゲッティなのにお箸!」。
箸が用意されているのがうれしい! 香ばしいカルボのスパゲッティは、焼きそばのように箸で啜り上げるのが最高。
【パ】「パパ・ママだけでなく、子供にも人気!」。
女性客や、休日は家族連れも多い(オフィス街じゃないもんね)。
店長の髙橋一貴さんは、トッピングで自分好みの味を見つけてほしいという。
「粉チーズ ダブル、焼きマヨ ダブル、麺よく焼き」などと、「ラーメン二郎」のような注文ができるようになれば、あなたも立派な「カルボニスト」の仲間入りです。
――つづく。
文:神林桂一 写真:萬田康文