「Shinfula」は埼玉県志木市の住宅街にあるケーキ屋さん。シェフは世界のフーディー達が注目するレストラン「NARISAWA」で、9年間パティシエを務めた中野慎太郎さんだ。中野さんがつくるケーキには驚きと新しい発見が仕込まれている。この「ポム・サバラン」もきっとそう。
丸いドーム型の、一見なんの変哲もないムースケーキ。そう想って口にした途端、様々な味わいが舌に広がった。
最初にシナモンの風味が口中を覆い、リンゴの甘酸っぱさが優しく後に続く。リンゴの味わいの中にも、フレッシュな香りとややこっくりした旨味の二層が巧みに混ざり合う。
そして、ふわっと鼻腔を抜けていく微かなカルバドスの風味は実に軽やかで上品だ。
「外側はシナモン風味のリンゴのムース。中に包みこんでいるのが、アニスやバニラ、シナモンのシロップにつけたサバランです。これには、少しだけカルバドス(リンゴのブランデー)を効かせてあります」と中野慎太郎シェフが説明してくれた。
リンゴとシナモンという王道の組み合わせに伝統菓子のサバラン。いずれもクラシックなテイストながら、中野シェフはサバランをウェットな生地として捉え(このケーキでは)、ムースと合わせている。こうした発想の転換こそが新しさを生む鍵なのかもしれない。
ムースとサバランを陰で支えているのが、タルト・タタン風にキャラメリゼした半ばペースト状のリンゴだろう。
やんわりとした食感と味わいだけに、ともすれば凡庸になりがちな面をタタン風のリンゴを僅かに忍ばせることで、全体の味をギュッと引き締めているように感じられる。
前回の”ポワール”と同じくバランスの取り方が実に絶妙。ムースにコクと甘味をプラスするために、砂糖ではなくメープルシュガーを加えるといった細やかな配慮が、完成された逸品を生み出すのだ。
――明日へつづく。
文:森脇慶子 写真:馬場敬子