「Shinfula」のケーキひとつ目は「和栗」。ケーキ屋の秋の定番モンブランと思いきや、酒粕や餡子といった和のテイストが詰め込まれています。和栗と酒粕と餡子。決して意外な組み合わせではなく、中野慎太郎シェフが描いたストーリーでしっかりと結ばれている食材でした。
見た目はモンブラン。けれども、中には「獺祭」の酒粕でつくったクレームブリュレとほんの少しの漉し餡が隠れている。
栗や酒粕を用いた理由は、重陽の節句にちなんでのこと。「和栗」をつくり始める時季がまさに重陽の節供の頃。収獲祭とも結びついていた重陽の節句には、栗ご飯を食べ、菊の花びらを浮かべたお酒を飲む習慣があったとか。「和栗」をひと口食べれば、栗と酒の香りを餡の味わいが見事につなぎ調和をみせる。
日本古来の風習を菓子を通して表現したいという中野愼太郎シェフの想いが「和栗」に込められている。栗は熊本産を使用。日本ならではの実りの秋を感じさせる、ストーリーのあるケーキだ。上にあしらったヘーゼルナッツやアーモンドの食感とのコントラストも絶妙。
ヘーゼルナッツオイルを入れたスポイトも添えることで、食べている途中で味の変化を楽しませる遊び心も中野シェフならではだ。
店先には、ゆったりとしたウッディなテラス席があるものの、店内は決して広いとは言い難い。店の隅にこじんまりとしたテーブル席がひとつ。とりあえず置いてみました、といった体のイートインスペースがつくられているのみだ。
一方、店とアトリエを仕切るガラス戸の向こうでは、中野シェフを始め数人の若きパティシェ達が忙しげに立ち働いている。そのアトリエが、なんと店内の3倍以上はあろうかという広さ!完璧な菓子を目指そうとする中野シェフの気概が伝わってくる。
――明日へつづく。
文:森脇慶子 写真:馬場敬子