元々握り鮨は屋台の食べ物でファストフード的なものでした。気が向いたらふらっと寄って鮨をつまむ。そんな粋な鮨スタイルを楽しめる、昔ながらの江戸前寿司を体現している稀有な鮨屋が銀座にあります。
懐かしき江戸前鮨のありようを、現代の銀座で体現する稀有な鮨屋。それが、昨年オープンした「鮨 み富」だ。
店は新しいが、主人の三橋克典さんはベテラン。銀座の老舗「新富寿し」(現在休業中)で、22年間修業を積んだ職人だ。「きっちりと塩や酢で〆た光り物や、キュッと味のしみ込んだかんぴょう巻きなど、昔ながらの鮨屋の仕事が好きなんです」と話す。
その言葉通り、小肌はベタ塩できっちりと〆た身の中に、しっとりとしたジューシーさがあり、小肌特有の鯔背な香りが後をひく。鼈甲色に煮含めた煮蛤は、一見いかにも味が濃いようでいて、味わいは優しく、蛤本来の旨味がきちんと残されている。
ひと手間かけた仕事が光る鮨種もさることながら、今時珍しい通し営業に加えて握り中心、お好みも大歓迎。さらに15時まで頼めるおまかせ握りなら、鮨8貫と巻物半分が付いて、なんと3,240円!
それも「もともと握り鮨は屋台の食べ物、江戸時代のファストフードですから」との三橋さんの思いゆえ。好きな時間にふらっと鮨をつまむ。これぞまさしく、いま世の中が求めている鮨スタイルだろう。
文:森脇慶子 写真:木村心保
※この記事の内容はdancyu2019年7月号に掲載したものです。