明日、どこに食べに行こう?
蕎麦本来の鮮烈な香りが楽しめる神田の名店|今年中に行っておきたい東京の和食店③

蕎麦本来の鮮烈な香りが楽しめる神田の名店|今年中に行っておきたい東京の和食店③

蕎麦と言えばつゆにつけてズズッとすするものですよね。しかし、思わずつゆにつけずに食べたくなるほど、強烈で純粋な蕎麦の風味が味わえる店があります。そんな蕎麦喰い必見の神田の名店をご紹介します。

蕎麦界の革命児

「眠庵」主人・柳澤 宙(ひろし)さんの打つ蕎麦は、ただそれだけで十分旨いと思わせる力強さがある。鼻先を近づけただけでむせかえるような、鮮烈にして猛々しい香り。それを、初めて体験したのが、この店の蕎麦だった。

蕎麦と酒、豆腐をこよなく愛す、主人の柳澤 宙さん。酒肴の仕込みまで一人でこなす。酒は一合490円~、酒肴220~650円は、自身が幸せに感じる価格設定だ。

草っぽい香りもあれば、ナッツのような芳ばしさもある。一口啜り込めば、口中が豊かな甘味で満たされる。蕎麦もまた穀物なのだと再認識する一瞬だ。

2種盛り1,190円。蕎麦の品種は、2週間ほどで替わり、時には熟成させた蕎麦が出ることもある。まずは何もつけずに味わいたい。

美味しさをたとえるなら、炊きたての白いご飯といったところだろうか。旨い米なら、そのまま食ベたいと思うように、柳澤さんの蕎麦の風味の高さに、ついついそれだけを口に運んでしまう。蕎麦つゆは、蕎麦を啜る合間の口直し。ある意味、漬物的存在と言ってもいいかもしれない。もちろん、つゆをつけても美味しさは変わらない。だが、何もつけないほうが、蕎麦本来の持ち味を、よりダイレクトに楽しめる。

蕎麦を待つ間に、コップ酒で一献。喜久醉は正一合で540円の良心価格。長野のナカセンナリ大豆でつくる、納豆220円、豆腐320円、おから320円。この自家製“豆三兄弟”と、小松菜おひたし320円があれば、日々の憂さも吹き飛ぶ。

柳澤さんはまた、合間を縫って各地の蕎麦畑を巡り歩き、時に作業も手伝う。「同じ産地でも、品種や畑が違えば味や風味が変わるから」と、蕎麦農家や品種別に製粉して打ち分けるスタイルも確立してきた。彼ほど蕎麦の個性を的確に把握し、表現している人もいないだろう。こんな蕎麦は、そうそうない。柳澤さんはやはり革命児なのである。

店舗情報店舗情報

眠庵
  • 【住所】東京都千代田区神田須田町1‐16‐4
  • 【電話番号】03‐3251‐5300
  • 【営業時間】18:00~21:30頃
  • 【定休日】日曜 祝日
  • 【アクセス】東京メトロ「神田駅」6番出口より1分、JR「神田駅」より4分

文:森脇慶子 写真:神林 環

*この記事の内容は2017年8月号に掲載したものです。