山の音
確かに特別な夜。
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確かに特別な夜。

いつもの夜が、特別な夜に変わる。この国で暮らす多くの人にとっての特別な夜に。一挙手一投足を見つめ、ハラハラとドキドキを繰り返しながら、歓喜の瞬間を迎える。この夜、いったいどれほどの人が歴史の目撃者になったんだろう?

ちょっと新横浜まで、というのが良い頃合いの非日常感を醸し出す

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ラグビーワールドカップ「日本vsスコットランド」を横浜国際総合競技場に観に行った。3連続オフロードパスをつないでの日本のふたつ目のトライには本当に鳥肌が立った。凄いものを見た!ボクはラグビー経験者ではないし、戦術に関する知識も深くなく、まあ、このゲームに関してはラグビーに詳しい方がいろんなことを書いたり、語っていらっしゃるので、ワールドカップ会場周辺で見た、ラグビー以外のあれこれを少し。
まず会場にどうやって行こうか思案したが、東京駅で一緒に行く人間と待ち合わせ、台風の翌日ということもあって東海道線のダイヤが乱れていたので、新幹線に乗ることにした。
新幹線に乗るのって楽しいですね。関西や東北に行くのに新幹線はまあ当たり前なんですが、ちょっと新横浜まで、というのが良い頃合いの非日常感を醸し出す。自由席特定特急料金¥870‐なり。
車内には結構な数の紅白の日本代表チームのユニフォームを着た人が乗ってます。新横浜駅の改札を出ると、ザワっとした高揚感に満ちている。おー、これは楽しいなあとボクが思ったのは、スカートを履いた男たち。スコットランドの男たちである。民族衣装のチェックのキルトを腰に巻いて陽気にチャントを歌いながら歩いている。ちょっと自分も履いてみたいなあ、と率直に思いましたね。これはやってみないとわからないですよね、きっと。
ネットで調べてみたらスコティッシュ&ケルティック・ファッションのオンライン・インポートショップに辿り着き、¥22,050‐(税込)で売っている。トライしてみるか。ちなみに、これはリーズナブルな値段の既製品で、日本の呉服同様、スコットランド産ウール素材のオーダーメイドは7~10万円以上するそうです。

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ビールをぐびりと飲み干し、ジッパーを上げる

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さて、ラグビーファンは本当にビールが好きですね。実際にスタジアムでもビールの売り子の人は、メチャ忙しそうにしてました。それでビールをたくさん飲むと当然ながらトイレに行きたくなる。女性の方、すみません、男性トイレがなかなかに楽しい社交場なのである。自分もハーフタイムにビールを買って、そのカップを手に列に並び、カップを手に、ビールを飲みながらおしっこをする。もちろん行儀が悪いのであるが、新鮮かつ不思議な感覚である。これは家でやっても盛り上がらない。かといって、普通の日に、たとえば恵比寿駅のトイレで缶ビール片手におしっこしていたら、相当ヤバい感じになりますね。試合中の男子トイレでは、そうやってビールを飲みながら、用を足しながら、ゲームの感想を語り合っているのである。
ちなみにボクの隣は、フランスから2週間の予定でラグビー観戦&観光に訪れたという男で、前半の日本代表のプレーを褒めそやし、日本が勝つね、この試合、と話しながら、ビールをぐびりと飲み干し、ジッパーを上げる。Bon voyage!このフランス人のように、日本やスコットランドのサポーター、というわけではない、ただラグビーが好きなんだよね、という人も多勢観戦しているのが会場の雰囲気を盛り上げる一因でもあるんだろうなぁ。
応援の仕方もいろいろある。正直「ニッポン・チャ・チャ・チャ!」は厳しい、というか強度がいまひとつ。NIPPONのIPとONのふたつを続けて大声で叫び続けるのは難しくないですか?味方がピンチのときに歌えるチャントがあるといいのに、と思ったな。
素晴らしかったのは主将のリーチマイケルがボールを持ったときに自然発生的に沸き起こる「リ~~~~~チ!!!」という低い声の塊。その声に応えるかのように凄いタックルを連発するニュージーランド出身の日本の主将。これにはしびれました。

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――明日につづく。

文・写真:大森克己

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大森 克己(写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。