dancyuのwebがスタートして303日目になりました。区切りよく、このシリーズを300日目の公開すればよかったのですが、メモリアルの意識がちっとも頭になくて、ここのリードに何か書くことはないかと指折り数えてみたら、半端な数字でした。でも結局、303日目のことを書いています。そういうものですね。
中学3年生の2学期が始まったばかり、そう、35年前のちょうどいま頃の話です。
放課後、教室のベランダで、友達とふたり、ぼーっと外を眺めていたら、彼はもごもごと何かを言いたそうなんですよね。「あのさー」とか「やっぱいいや」とか言いながら、次の言葉がなかなか出てこない。
「言えよ」「言うよ」「早く」「わかったよ」
なんてやり取りの後に、彼はおそるおそるといった風情で、口を開いたんです。
「たまにさ、Jとしの区別がつかなくなることない?」
「えっ、よくわかんないかも」
「Jとしだよ」
……(沈黙)。
「たとえばさ、何々しました。とか書くときにさ、何々JまJた。とか書いちゃったりして、あれ、これでいいんだっけと思うことない?」
彼は空中に文字を書くような仕草を見せます。僕はその指先を見つめます。続けて、みそしる、さしみ、すしと声に出しながら、僕の目の前で動く彼の指は、みそJる、さJみ、すJ……。
「あるよな、絶対、あるよな」
「ないな、絶対、ないな。それってさ、Jとしの区別がつかないんじゃなくて、しが書けないんじゃないの?」
「書けないんじゃないの、わかんないの。しAPANって書いて、あれ、これはJじゃなくて、しだよなって思うこともあるから。しも書けるんだよ。わかんなくなるだけなんだ」
「Jとしの区別がつかなかったこと、ないなぁ」
「あるはず。Jとしがどっちがどっちかわからなくなって、混乱すること、あるよね」
「普通、混乱しないよ」
なんて答えながらも、僕は内心どきどきしていたんですね。
彼ならわかってくれるかも。言うならいまだぞ。心の声が叫びます。
実は、僕にも似たような悩みがあったんです。
この話、つづきます。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:石渡朋