広島で小イワシを食べたい!
広島の小イワシは「一発競り」だった。

広島の小イワシは「一発競り」だった。

小イワシ漁が終われば、船は息つく間もなく港へと向かう。市場で競りが待っている。一刻も早く、届けなければならないから、船は水しぶきを上げて海上を進む。総出で小イワシを水揚げしたら、競りだ。丁々発止を期待していたら、瞬く間に競りは終わった。小イワシは、なんでもかんでもスピード勝負だった。

バケツリレーで小イワシを競り場へ。

小イワシを水槽いっぱいに詰め込んで、船は猛スピードで港に向かった。だんだんと空も白じんできた。
遠くに港の灯りが見てくる。近づけば、高く積み上げられた発砲箱と共に、小イワシの到着を待ち構えている漁港の人たちの姿が目に飛び込んでくる。

船
陸だ。船よ、あれが港の灯だ。夏の朝5時は、すでに空が明るくなっていた。

船が港に接した瞬間、一斉に港で待っていた人たちが動き出した。水槽の中の小イワシをバケツですくって、次々と発泡箱へと移していく。言葉を発する余裕などない。小気味のいいスピードで、すくっては移し、すくっては移しが繰り返される。

船
漁港
船
船
小イワシ
漁港
小イワシ
漁港
漁港

発砲箱1箱に入る小イワシの漁は8kg前後。
「今日は130箱くらいいったんじゃないかな。多くも、少なくもない。平均的な量ですね」
ついさっきまで、ものすごいスピードで船を走らせていた、船長の大井篤さんは言う。小イワシを送り届けて安心したのか、その顔からは、沖で見せていた緊張感が消え、穏やかな表情に変わっていた。

大井さん
朝5時。ひと仕事を終えた大井さんは、安堵の表情を浮かべて、競り場へと向かう小イワシを眺めていた。

競りは目にも止まらぬ早業だった。

発砲箱に詰められた後も、小イワシが留まることはない。
慌ただしく競り場へ運ばれると、競り人の青木三思さんがたったひと言「3000円!」と叫ぶ。すると買い手が、わっと発砲箱のまわりに集まり、言葉を発することなくそれぞれが発砲箱を手に、四方八方へ散らばっていく。
あれ、もう終わったの?
あっけなく、競りは終了した。

青木さん
競り人歴約40年の青木さん。組合のなかには「一発競りができるのは、ベテランの青木さんだけ」と言う人もいる。

船が到着する前に、漁師は沖から取れ高を連絡するのだという。小イワシが港に到着した時間と、見た目の印象で競り人の青木さんが価格を瞬時に決める。
この個性的な競りは、地元では「一発競り」と呼ばれているそうだ。小イワシを一秒でも早く卸すために定着した、独特な方法なのだ。

小イワシ
積み上げられた小イワシは、出荷先が決まり、次なる場所へと向かっていく。

一目散に沖から港へ届けられた小イワシ。さて、広島の人々はどんなふうに食しているのだろうか。
本当に「七回洗えば鯛の味」になるのかな。

小イワシ
朝に揚がった小イワシは、その日のうちに広島県内のどこかで食べられている。みんなをおいしい顔にするのだ。

ーーつづく。

文:吉田彩乃 写真:宮前祥子

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吉田 彩乃(ライター)

1986年、東京生まれ。食と酒まわりにいる「人」が好き。よく行くのは、和洋中を問わず気楽な雰囲気の店。本当はレシピや酒場の書物を増やしたいが、最近は某誌の企画でセミ・ザザムシ・ハチノコを食べ、思いがけず「昆虫食」の世界に足を踏み入れてしまった。