西荻窪の酒場の出口は、どこなのか。何軒か巡った後に、たどり着く場所は、いつもオーセンティックバー。「D’s Bar」で店主と語らうもよし、ひとりしっぽり飲んでもいい、隣り合わせた顔見知りや初対面の客と盃を交わすのもまた愉しい。ときに憶えていないこともあるけれど、この店を出れば、今日が終わる。
「コノコネコノコ」を出てからは自由。好みのタパスを求める気分で別の店でちょい飲みするのもいい。そう言えば、西荻窪駅前を日本のサンセヴァスチャンと評した方がいたくらいだ。北口の店から3、4分歩けば南口には名店「にぎにぎ」もある。軽く寿司を握ってもらうのもいい――。
会食やそのあとの飲みも終わり、てっぺんを回ったあたりに僕が止まり木にしているのが「D’s Bar」だ。西荻で、これほどシングルモルトの揃ったバーはなかなかない。200種類のセレクトされたモルトが並ぶ。
猪又大輔さんが店主なので、この店名である。そしてその大ちゃん、実に話芸の達人である。気持ちの高ぶりをこちらに感じさせることが一切ない。湿度がないから言葉が心地よい。
旅から帰った人には、大ちゃんが回ったスコッチ巡礼の思い出を返し、初めてのお客さんへも、蟻地獄がアリンコに砂をかけるように巧みな言葉で引き寄せる。
喉が渇いていたら、フルーツカクテルを大人らしくイッキ飲みするのがおすすめだ。
大ちゃんはフルーツカクテルの名手でもある、夏はスイカのソルティドッグ、桃のマティーニ、スダチの香り漂うジントニックなどのカクテルがバーを華やかにする。
今週は、桃でジンではなくウオッカマティーニをつくってもらった。
フルーツは朝の金、昼の銀、夜の銅というが、言葉が足りない。西荻窪の夜の果て、真夜中だったら、それはダイヤにもなるのだ。
文:石原正康 写真:石渡朋