観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の飲み倒れ講座~
「ずぶ六」で魚と日本酒|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑩

「ずぶ六」で魚と日本酒|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑩

ここは観音裏。カウンター中心の隠れ酒場は、気さくな雰囲気でいて、日本酒と気の利いた肴が愉しめるひとり飲みの天国だった!江戸の“飲み倒れ”の精神を、「人生を懸けて」追求する神林先生が、自身のミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」25軒の中の1軒を案内します。

そこは観音裏に瞬く小さな新星。

「ずぶ六」(3位)は、理想的な「ひとり飲み」の店だ。
「寡黙な店主」「カウンター中心」「いい日本酒が揃う」「肴が充実」「渋く落ち着いた雰囲気」と、僕が考える「ひとり飲み」の条件をほとんど満たしている。観音裏では知らぬ者はない日本酒酒場の名店「ぬる燗」(2位)と双璧をなす、といっても過言ではないだろう。

突き出し300円
観音裏にある「ずぶ六」の突き出し300円。この日は、三つ葉としめじのお浸し、白身魚の南蛮漬け、自家製海苔の佃煮。エンジンがかかります!

僕は『dancyu』を創刊号から愛読しているのだが、初めてdancyu編集部の部員と出会ったのは、この「ずぶ六」のカウンターだ。ここで女性編集者と意気投合し、浅草の酔っ払い代表(?)として『dancyu』の2018年5月号「美味下町。」特集に載せていただいた(記事の中の写真でも「ずぶ六」のカウンターで飲んでいます)。

外観
楚々とした白い暖簾と杉玉が「ずぶ六」の目印。
店内
けっして華美ではない店内。渋くて堅実な印象は料理にも表れます。

その「ずぶ六」が半年後、ビッグニュースが……。
「『ずぶ六』がミシュランに載った!」――その一報は飲み仲間からもたらされた。あの『ミシュランガイド東京2019』のビブグルマンに掲載されたというのだ。

「えっ!」と驚いたのは僕だけではない。
店の常連も地域の飲食店の店主たちも、だ。
もちろん「ずぶ六」の実力を過小評価していたわけではない。
「ずぶ六」は、知る人ぞ知る隠れ家的な、懐にもやさしい、渋くて目立たぬ小さな店。しかも、2017年に開店してまだ2年目だ。『ミシュラン』が選ぶ店は、もっとオシャレだったり、流行の先端を行っていたり、話題性に富んでいたりする客単価の高い店だという印象を持っていたから、逆に『ミシュラン』の実力を再認識させられたものだ。
そして、その驚きは同時に「ずぶ六」に通っていた僕らを誇らしいような気持ちにもさせてくれた。

カウンター席の前
カウンター席の前にはお燗映えする一升瓶が並びます。

ずぶ酔いへと誘う「ずぶ六」の魅力。

店主の谷口賢一さん
店主の谷口賢一さんの控えめでいて、気配りの行き届いた接客も居心地よさの理由のひとつです。

店主の谷口賢一さんは、宮崎生まれの東京育ち。池袋・神田・新橋など繁華街の忙しい居酒屋で働いた後、2017年に自分の店を出した。
「ずぶ六」とは江戸時代の言葉で「ぐでんぐでんに酔っぱらた人」のことだ(その上に「ずぶ七」というランクがあるというのだから、「江戸の飲み倒れ」恐るべし)。

昼間の店内
土・日曜日はまだ陽の高い15時からの開店なのもありがたい。

しかし、この店には江戸の一杯飲み屋のような安っぽさはない。店名に「酒さかな」と謳っているように、日本酒も魚も肴もすばらしい。その魅力を数え上げると……。
<ずぶ1>
昔から美術に興味があったという店主のセンスが隅々にまで行き届いた店内と、器や酒器。

<ずぶ2>
奥津荘という酒場長屋の間口が狭く奥行きがある造りが活かされた、居心地のいい7席のカウンター。

「ずぶ六」は長屋の端っこ
「ずぶ六」は長屋の端っこ。喫茶店やフレンチ酒場などが並びます。

<ずぶ3>
燗酒に力を入れた「日本酒」のラインナップ(冷たい酒10種類前後・常温とお燗15種類前後)。容量も90ml、120ml、150mlと3種類あり、半合ずつ飲み比べができるのもうれしい。

<ずぶ4>
埼玉県三郷からチャリ通する店主が、通勤途中に足立市場で仕入れる魚は生の天然もの。刺身盛合わせは、サイズ「S」でも大満足だ。

<ずぶ5>
ひと手間かけた日替わりの魚料理、季節の野菜料理などの「肴」も楽しみだ(肉料理は少ない)。本格的な和食は独学に近いというが、料理の旨さにもセンスにも舌を巻く。
35種類ほどあり、500円前後が中心。その他に約15種類の小鉢が1個300円、なぜか3個で600円という太っ腹!このあたりも呑み助ゴコロをくすぐる。おっと、3種盛りのお通しも300円だった。

小鉢のうるめいわし、青唐のしらすおろし、魚の肝煮
小鉢のうるめいわし、青唐のしらすおろし、魚の肝煮。1個300円なのに3個で600円!?拝みたくなるような価格設定です。
鱧(はも)の焼き霜と夏野菜のサラダ
夏らしい、鱧(はも)の焼き霜と夏野菜のサラダ880円。
あさりととうもろこしの冷製茶碗蒸し
あさりととうもろこしの冷製茶碗蒸し400円。奥深い旨味のあさりのだしと身が入り、立派なアテになる一品です。

<ずぶ6>
そして、忘れてはならないのが研究熱心で実直な店主。ワンオペでこれだけの料理を、この値段で提供する奇跡!後光がさして見えるのは僕だけだろうか。
僕は、いつも「安すぎる!」と文句を言い、他のお客さんから顰蹙(ひんしゅく)を買っている。

カウンター
ああ、いつも満足。思わずこんな笑顔が出てしまいます。

――「ずぶ六」の世界にずぶずぶとはまってしまうわけ、おわかりになりましたか?
僕は職場の都立浅草高校でミニコミを出しているのだが、2019年2月に行われた「浅草観音裏・ 酔いの宵」という飲み歩きイベントに合わせて、同僚たちに「浅高・観音裏総選挙」を実施し、好きな店に投票してもらった。
結果は、グランプリ「ずぶ六」、準グランプリ「笑ひめ」、第3位「うんすけ」と、この「ひとり飲み」シリーズで紹介した店が上位を独占した(メデタシメデタシ)。
本校の美術教員・甲斐健太さんは、「『ずぶ六』は“盛り”。どの料理でも芸術的な盛り付けが素晴らしい」と評価する(彼は自作の“ぐい呑み”を店に置いています)。

浅高・観音裏総選挙
都立浅草高校の同僚たちに行った「浅高・観音裏総選挙」。「ずぶ六」は堂々のグランプリ!

「ずぶ六」は、ひとり飲み客の多い店。中でも女性のひとり飲みが目立つ。
これは店主の谷口さんの魅力によるものか、はたまた酒や肴の魅力によるものか。
その答えは、ご自分の目と舌でお確かめください。

ひとり飲みの店ランキング2019
神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。今回のシリーズテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」。大好きな店ばかり25軒をランキング形式で紹介しています。
神林先生の「ひとり飲みの店ランキング2019」より。
▼15位「焼酎処 乙」
2005年開業。珍しい焼酎が揃っている。地元の客や飲食関係者たちが多く集まる店。
▼14位「OGURA isBar」
1998年開業。オーセンティックな雰囲気で、ウイスキーの品揃えがすばらしい大人のバー。
▼13位「田毎」
1966年開業。釜飯屋で飲む。焼鳥も『dancyu』に載る実力。女将は元女子レスラー。
▼12位「コントワールクワン」
2015年開業。ナチュラルワインバー。パスタ、ピザ、メイン料理が1000円前後から。
▼11位「おにぎり 金太郎」
1972年開業。吉原裏の渋いおにぎり居酒屋。女将さん手製の日毎の惣菜も魅力。
▼10位「呑み喰い処 酔花」
2007年開業。浅草の芸者衆や旦那衆も立ち寄る家庭的な店。靴を脱いでくつろげる。
▼9位「笑ひめ」
2010年開業。愛媛料理の居酒屋。着物に割烹着姿の女将が人気。柑橘系の酒が充実。
▼8位「ペタンク」
2017年開業。「ミシュランガイド東京 2019」ビブグルマン掲載のビストロ。気取らずに料理とワインを。要予約。
▼7位「ちゃこーる」
2013年開業。元「萬鳥(ばんちょう)」の焼き方が開いた。天城軍鶏に仏産鶉、鴨、ジビエもある焼鳥屋。
▼6位「コメジルシ」 
2014年開業。浅草駅地下街のカルト的日本酒バー。店主におまかせのお得なコース制。
(ランキングは、テーマや先生の独断で変動することも多分にあります)

――2019年7月11日につづく。

<本日のお会計>
生ビール(キリン ハートランド)550円。つき出し300円。冷酒“いずみ橋 純米生酛 夏ヤゴ”(120ml)550円。刺身盛り合わせ(S)900円(この日は、鰯、白いか、ホウボウ、小肌、鰹、イサキ。ワサビ、生姜、辛子、塩を添えて)。燗酒“諏訪泉 純米20BY”(一合)850円。小鉢3個セット(うるめいわし、青唐しらすおろし、魚の肝煮)600円。計3,750円也。

店舗情報店舗情報

酒さかな ずぶ六
  • 【住所】東京都台東区浅草3-34-3
  • 【電話番号】03-5603-1250
  • 【営業時間】17:00~24:00、土日祝は15:00~
  • 【定休日】月曜(祝日は営業)
  • 【アクセス】つくばエクスプレス「浅草駅」より9分

文:神林桂一 写真:大沼ショージ

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神林 桂一(都立高校国語教師)

教師生活41年。食べ歩き、飲み歩き歴は44年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9000軒を含む1万4800軒の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。