さすがに毎日は無理だけど、週1回ならがんばれるかな(仮)
居酒屋の愉しみ方。

居酒屋の愉しみ方。

子供の頃は嬉しいことがあると、大きな声を出して感情を露わにしたり、本気のガッツポーズをしたりしていたのに、大人になるとなかなかそんな機会がないなぁと思っていたら、第86回東京優駿の最後の直線、びっくりするくらい大きな声と渾身のガッツポーズが出ましたよ。

居酒屋で、女子ふたり組と隣り合わせたんですね。
年の頃は、僕よりもふたまわりほど若いかな。20代半ばくらい。とにかく、食べっぷりと飲みっぷりが気持ちいい。からあげ、ポテトサラダ、焼鳥、煮込み、刺身盛り合わせ、だし巻き玉子……次々と運ばれてくる料理と、生ビールおかわり!連発に、隣に座っていた僕は惚れ惚れしていたんです。

気になることが、もうひとつ。はす向かいに座っていた女の子のTシャツには「JAWS2」のポスターが大きくプリントされていたんですよね。「JAWS」ではなくて、なんで「2」なの?

「あんた、なんで2なん?」
まるで僕の心の中を読むように、隣に座っていた女子が問いかけます。
「なにが?」
「Tシャツ。JAWSって、2あったん?」
「あるよー」
「知らなかったなぁ。2が好きなん?」
「だって、2しか観たことないもん」
「えぇぇ。普通は1から観るでしょ」
僕としては20代の女の子が「JAWS」に関心があることが驚きだったのに、1を飛ばして2から観るってことにまたびっくり。
ふたりはここから「JAWS」を肴に、どうでもいい会話を繰り広げていくんですけど、これがまた愉快でね。
「JAWSって、焼鳥、食べるかな?」
「食べるよ、だっておいしいもん」
「刺身は食べるよね」
「いっつも食べてる!」
ふたりは大笑い。僕も吹き出しそうになりましたけどね。

ふとそのとき、僕の隣の女性がピョン吉を相手にするかのように、TシャツのJAWSにからあげを食べさせようとしたんですね。刹那、もうひとりの女性が小さい声で叫んだんですよ。
「ガオッ」
女性はびくっとして、からあげがぽろり。「びっくりしたぁ。ガオってJAWSじゃないよ、ゴジラだよ」なんて言いながら、また大笑い。

居酒屋は他愛のない話で満ちている。いいなぁ。年を取ると、酒場でも真面目な話をしがちでしょ。仕事の話とかね。ふたりの愉しいやり取りを目の当たりにしたら、久しぶりにどうでもいい話を延々としたくなっちゃった。
そんなことを想いつつ、盛り上がるふたりとJAWSが食べ損ねてテーブルの上に転がったからあげの行く末を気にしながら、僕は店を後にしたんです。

dancyu web編集長 江部拓弥
写真:金子山