山の音
欲望という名の会話。
大森さんの写真 大森さんの写真

欲望という名の会話。

写真家の大森克己さんの連載が一昨日から始まっています。男と女、食欲と性欲、興奮と退屈、光と影、愛と平和、笑いと涙、歌と踊り、ランチとディナー、その他もろもろ、写真をめぐる雑感を中心に、これから少しずつ綴っていきます。次回は卯月に。

アンゲラ・メルケル52回、大坂なおみ87回、塩野七生48回

人は美味しいレストランでいったい何を話しているのかなあ。
料理の素材が良いとか、どこのどんな生産者のワインであるとか、そっち方面のことじゃなくて、どういう話題を持ち出して好きな人を口説いているのかとか、政府転覆革命談義をしているとか、山下課長補佐お疲れさまです会とか、そういう方面のこと。

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ミシュラン覆面調査員的な人がある店に1週間通い詰め、すべてのテーブルで話されている会話に聞き耳を立て、登場するすべての人名と地名のリストをつくってみるというのはどうかしら。
まあ実際には不可能に近い訳ですが、そんなこと。でも想像してみるとなかなかに面白い。
「@アヒルストア~柳家喬太郎7回、平野レミ28回、トーマス・マン2回、アルバン・ベルク3回、竹内まりや17回」とか「@オールドインペリアル・バー~アンゲラ・メルケル52回、大坂なおみ87回、塩野七生48回、アリックス・ドブキン3回、ニーナ・シモン2回」「@森本~ドーハ4回、テヘラン8回、アシガバート1回、イスタンブール12回、三河安城46回」。こんな感じで。

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このリスト、ほんとのところは膨大に長くなる訳ですが、ある店に集う人たちがどんな話をしているのかを、かなり面白おかしく推察出来ますよね。
世の中のことを数値化するって、妙な話なんだけど、数字って一人歩きするんだな。

中目黒のワインバーで馬鹿話をしながら飲んでいたときに

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むかし友人3人とボク(女2人、男2人)で中目黒のワインバーで馬鹿話をしながら飲んでいたときに、いままで経験したセックスに点数を付けるとすると、という話になり、ボクが「あー、35点とか、18点とか、あるなあ」と言うと、1人の女友だちがそれに同調して「あるあるある」って言って、でも残りの2人が「えー、そんなのないよ。だってセックスしてる時点で100点じゃん!」ということもあったりした。

――4月につづく。

文・写真:大森克己

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大森 克己(写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。