大人も、子供も、男も、女も、甘いのが好きな人もそうでない人も。シュークリームはみんなの「おいしい」が詰まった不思議なお菓子です。気取らない、格好つけない、だけどふつうにおいしい、っていちばん凄いことかもしれません。
重厚な石造りのゲートを抜け、2階へのマホガニー材の階段を上がると、清らかな喫茶室が目前に広がる。天井は高く、耳にはクラシック、目にはチャペル風のステンドグラス、そして丁寧な接客のシスター風のウェイトレスさん。ここでは高まる鼓動を落ち着けて、窓際の席を陣取ってほしい。この街のシンボルである瀟洒な旧駅舎を眺めることができる。ひととき、佳景陶酔。そう、ここは日本一のお屋敷街・田園調布なのだ。
洋菓子店のシュークリームは、街の姿を映すもの。「レピドール」のそれはずばり大人仕様だ。シュー生地に使われる小麦粉は薄力粉のみで、口当たりは軽く、サクッとしていて心地がよい。さらにしっかり焼き込まれているので、小麦の香りを感じられる。クリームはカスタード優勢で生クリームを混ぜたもの。なめらかな口当たりに、ミルキーかつ卵黄の旨味、そこにうっすらラム酒が効いている。子供向きではない、妥協なき洗練が詰まっている。
シュークリームをいただきながら、豊かな時間を過ごす。この上質さには店のルーツが関係しているのかもしれない。初代の大島陽二さんの実家は、1634年創業の老舗和菓子店「両口屋是清」だ。兄が和菓子の道を継いだことから、自身は洋菓子の道を志すことになったという。フランスでの修業を終え、自分の店を出すときに父から「緑の多いところ、季節がわかるところにしなさい」と忠告を受け、この地を選んだ。
まさに先見の明。「春には桜も綺麗なんです」と当代の崇嗣(たかつぐ)さんに教えていただいた。私の今年の花見は、「レピドール」の恩恵に預かり、“田園調布でシュークリーム”と決定した。
シュークリームを最も美味しく食べられる場所は、洋菓子店の喫茶室である。本誌では、店の文化を感じながら出来たてのシュークリームを食べられる素敵な喫茶室を紹介しています。ぜひ御覧ください。
文:飯塚天心 写真:渡部健五