亥の年が始まりました。日本では猪だけれど、中国では豚を意味するとか。ちなみに、卯は日本では兎でも、猫を意味する国もあるそうですよ。自分たちの当たり前が、ところ変われば通じない。食の世界ではよくあることで、そこに「おもしろい」があるんですよね。今年も「おもしろい」を探っていきますね。
猪。子供の頃から、僕はこの漢字を、迷いなく書くことができたんですよね。
ひとえに、アントニオ猪木さんのおかげです。
僕が生まれ育った町はジャイアント馬場さんの出身地。僕の父は馬場さんと中学校時代の同級生。そんな縁もあって、町も家も全日本プロレス派だったんですね。
そのこと自体は誇らしい話なんですけど、小学生だった僕は猪木さんのストロングスタイルになびいちゃって、どちらかと言えば新日本プロレス派。
金曜夜の「ワールドプロレスリング」を熱心に観ながら、ノートに星取表をつけたりしてね。そうすると、アントニオ猪木という名前を何度も何度も書くことになる。気がつけば、猪という漢字を身体が憶えちゃって、すらすらですよ。
けどね、中学生になると通学路の途中にジャイアント馬場さんの実家の青果店があって、毎日、店の前を通る。そうすると、毎日、馬場さんのことが頭をよぎる。いつの間にか、僕は全日派になっていたんですよねぇ。
大学生になって、再び、猪という漢字をあまた書く機会がやってきます。
阪神タイガースの所為です。
当時の僕はタイガースの熱烈なファン。大学の講義中は3連戦の先発ローテーションを考えることに多くの時間を費やしていたんですよね。
仲田、キーオ、猪俣……監督でもないのに、熱心にノートに綴っていました。
ちょうど、猪俣隆投手の全盛期だったんです。ローテーションからは外せない。そうすると、猪俣という名前を何度も何度も書くことになる。昔とった杵柄で、猪という漢字は、やっぱりすらすら。
猪俣さん、僕と同郷なんですよね。しかもね、わが県初のプロ野球ドラフト1位指名入団選手。ずっと気にかけていて、引退後は渡米して鮨職人になったんですよね。一度、食べてみたかったなぁ。
猪瀬直樹さんの想い出もあるんですけどね、それはいつか、また。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:enrica