速水もこみちさん初の弁当レシピ本『お弁当バイブル』。ずっしり重い一冊に、弁当づくりのノウハウを詰め込みました。掲載レシピ337品に込めた想いを語ります。
手づくりのお弁当って、それぞれの家庭の色が出ていてストーリーがある。そんなところに色気のような魅力を感じるんです。でも、お弁当づくりをしている人たちからは、ワンパターンでマンネリという悩みもよく聞きます。日々、お弁当づくりを頑張っている人たちのために、僕なりにお手伝いができたらいいなと思ったんです。
アイデアをひねり、愛用のスケッチブックにレシピを書き起こした。撮影は3日間に及び、朝から深夜までひたすらキッチンに立ち続けた。
単純計算すると、1日につくる料理は100品以上。詰める工程もありますから、まさしく時間との戦いでした。時計を気にしながら切って炒めて。休む間もないぐらい。家族が出かける時間に合わせて、毎朝、お弁当づくりする人たちの大変さをリアルに感じることができました。
撮影直前になって、急遽、食材の5段活用術を追加した。1つの野菜を切り方や調味料を変えて5パターンに調理。にんじんなら細切りにして鰹節で炒めたり、半月切りにしてクミンの香りをまとわせたり、輪切りにして豆板醤で味付けしたりという具合だ。
『もう1品欲しい』『この隙間を埋めたい』というときに、余った野菜でおかずができたら助かるだろうなと思って。家庭には買ったものの、出番が少ない調味料って結構ありますよね。それを救済するのもこの活用術の狙いなんです。僕の周りでは『これは使える!』と喜ばれています。
見た目が寂しい、おいしそうに見えない、持ち歩くと偏ってしまうなど詰め方も弁当の悩みのタネだが、この本で速水流のコツが伝授されている。
お皿に盛る場合、“どう飾るか”ですが、お弁当は“どう組み合わせるか”。それを考えるのは大変ですが、面白さでもあるんですね。僕の場合、アルミカップなど市販の仕切りは使いません。ナチュラルじゃない気がして。タレが絡むものや汁気のあるものは、ごはんの横か上に入れる。液だれが防げるし、たれが染みたごはんがまたおいしいんです。
味が混ざるのを防ぎたいときは、レタスなどの野菜を仕切り代わりに使うと、見た目がグッとよくなるそうだ。このような実用的なアイデアを取り入れつつ、「つくる人が楽しむことも大切です」と速水さんは言う。
ルーティンのお弁当づくりは、どこかで空気を変えないとただの作業になってしまう。それでは楽しくないですよね。僕が提案しているのは、シチュエーションの設定です。たとえば、野球男子のためのガッツリ弁当、ハレの日のお祝い弁当、働きに出るお父さんが持っていく中華弁当……。『今日はこんなイメージのお弁当をつくろう』と思うと、自然におかずも浮かんできて、つくるのが楽しくなっていく。バリエーションが出せるよう、お弁当箱も何種類か用意するといいですよ。
そんな発想は「料理が好きでたまらない」という速水さんだから思いつくこと。アイデアの源泉はどこにあるのだろうか。
外で食事をしたときにヒントをもらうこともありますが、ほとんど自分の頭の中で生まれています。あれとこれを組み合わせたらおいしんじゃないか、この食材を使ってこんな料理どうだろう、などと自然に閃くんです。海外ロケで見たこともない食材に出会ったり、その国の歴史や食文化に触れたりするのも僕にとってはアイデアの素。フランスロケでは、現地で星付きの日本人シェフたちと一緒に料理をしたのですが、ものすごく楽しくて勉強になりました。
普段も料理知識の勉強を怠らない。薬膳、野菜ソムリエ、食育などに関する講座も受講し、食品衛生管理者の資格まで持っている。
ひとつの道を極めるのが一般的な料理人なら、僕の強みはさまざまなジャンルをつくり、そこにオリジナリティを出せるところだと思っています。その部分を意識して撮影にのぞみました。
『お弁当バイブル』でも、和食、洋食、中華、エスニック、イタリアンなど幅広い料理が網羅されている。その中からロコモコ弁当、カジキのステーキ弁当、ごはんロールをピックアップ。次回からレシピ付きで紹介していきます。
文:上島寿子 写真:赤石仁