dancyuのwebサイト誕生を祝い、成功を祈願して、お酒を造りました。それが「d酒」です。この1本で、みなさまの日本酒愛が盛り上がることになれば嬉しいです。それでは、d酒が造られた物語を綴っていきましょう。
2018年8月、d酒チームは酒の仕込みのため、新潟港から海を渡り、佐渡島へ向かった。目指した場所は、旧西三川小学校。いまは名前を変えて「学校蔵」と呼ばれている。佐渡の地で126年続く尾畑酒造が、2010年に廃校になった小学校を酒造りの学びの場として改装、2014年に学校蔵として再生させた。見た目は、まんま小さな小学校でd酒の仕込みは始まった。
学校蔵での酒造りは、小学校の理科室を改装した仕込室で行われる。通常の酒造りは寒仕込みと言われるように、冬の寒い時期に造られるが、ここでは6月から8月の3ヶ月間が仕込みの時期となる。冬が終わり、酒造りがひと段落した尾畑酒造の蔵人たちが、夏季は先生となり、学びの場に訪れた生徒たちに酒造りを教えてくれるのだ。冬の酒造りと同じ環境にするため、仕込室の室温は10℃をキープ。校舎裏のプール跡やグランド跡に太陽光発電のパネルを設置して、太陽光エネルギーを活用することで冷房をフル稼働。夏でも酒が造れるというわけだ。学校蔵は、真夏の燦々と注ぐ太陽の力で酒を醸すのだ。
10畳ほどの仕込室には、仕込みタンクが4本設置されている。6月から毎月1本、1週間かけての仕込み体験には、日本酒愛好家や料理人など、日本各地はもちろん、海外からの参加者も少なくない。昨年はスペインでSAKE造りをしている醸造家アントニオ・カンピンスさんが参加、なんてこともあった。そして今回のd酒は、8月1日から7日にかけて仕込み、出来た酒は9月5から7日に搾って、26日と27日に瓶詰め。造り手総勢11名、d酒チームの日本酒愛も一緒に詰め込んだ。学校蔵はリキュール製造免許で酒を造っているので、仕込んだ清酒に佐渡天然杉を浸漬して、リキュールとして出荷している。
校舎の扉をガラガラと開けると、木造校舎の匂いに靴箱が並ぶ風景、いきなりセンチメンタルな気持ちにキュンとなる。きしきしと音がする長い廊下を歩いていると、つい昨日まで小学生たちが雑巾がけをしていたかのような感覚にとらわれる。木枠の大きな窓から入る自然光で照らされて、廊下はいまでも艶々と光っていた。学校蔵は仕込み部屋のほか、理科準備室を麹室に、用務員室を分析室と杜氏部屋に改装。そのほかはそのままの状態で利用している。
酒造りは微生物という生き物を相手にするので、その働きに合わせて造り手は動かなければいけない。小ロットといえども、冬季の酒造りとやることは同じだ。早朝にスタートする日もあるし、寝ずの番をすることだってある。水仕事や重い酒米を担いだり、きつい肉体労働も変わらない。だから安全な醸造のために、しっかりと休憩することも酒造りの仕事のひとつ。学校蔵では、かつての教室を休憩室として使っていて、ハンモックが設置されている部屋もある。造り手たちがハンモックで昼寝しているシーンは、学校蔵のひとコマになっている。1階の図書室には、佐渡の歴史や酒造りの資料が並び、こちらでも休憩をとることができる。
今回、d酒の設計をお願いしたのは、dancyuの日本酒特集でおなじみの松崎晴雄さんと藤田千恵子さん。30年近く日本酒業界を見てこられたおふたりが、「いま、改めて日本酒を知る」という原点に立ち、日本酒のおいしさってなんだろうと、dancyuのweb編集長である江部拓弥さんと一緒に考えた。さらには「日本酒うさぎ」の原口起久代さん、「アウレリオ」の大本陽介さん、「日和」の望月清登さんたち料理人。さらに記録映像を担当した映画監督の石井かほりさん、フォトグラファーの当山礼子さん、飛び入り参加の台湾の日本酒バイヤーKENNYさん、そして伊勢丹新宿店和酒アシスタントバイヤー倉友桐さんと私、編集者の神吉佳奈子。総勢11名が参加。杜氏の中野徳司さん、学校蔵の蔵人のみなさんの大いなる助けを受けて、あたふたしながらd酒を造ったのだ。
完成したd酒の販売がいよいよ始動。本日より、dancyu通販サイトで予約がスタート。伊勢丹新宿店での先行発売も決定!
d酒は4種類。性格(味わい)も、ルックス(ラベル)も、体格(数量)も違い、個性がある。すべてを愉しんでいただける機会は限られるが、みなさんに悦んでいただけたら嬉しい。
通販サイトでは、無濾過火入れ酒のほかに、本数限定で4本セットや生原酒セットなども購入可能。いかにしてd酒が誕生したかについては、次回へ続く。
文:神吉佳奈子 写真:当山礼子