練馬区の住宅街に佇むハード系のパンと、ナチュラルワインの魅力を広めた伝説の一軒「パーラー江古田」が出店!香ばしさとしっかりとした粉の旨味を楽しめるパンの詰め合わせを販売します。
ベーカリーカフェの業態が認知すらされていなかった2006年、学生街の路地にひっそりと誕生した「パーラー江古田」。エスプレッソマシンで淹れるコーヒーと自家製パンのおいしさが噂を呼び、やがて、パン好き、カフェ好きが全国から巡礼に訪れる“聖地”に。看板でもあるハード系の食事パン10種類が、このたびdancyu祭2022の会場に参上する。
サンドイッチでも人気の「リュスティック」は、皮はざっくり、クラムはもっちりの基本形。店内の石臼でじっくり挽いた全粒粉配合の香ばしい胡桃パン、酵母違いのフランスパン、粉違いのカンパーニュ、ガリッと濃茶色のベーコンエピ(口腔内を傷つけないよう注意!)など、どれもフェルメールの絵画に登場しそうな素の佇まい。
レーズン入り、チーズ入り、ナッツやドライフルーツ入り、黒胡椒などのスパイス入り、ハーブとじゃがいもを練り込んだフォカッチャなどのバリエーションもあるが、どれが詰め合わせに入るかは、当日のお楽しみに。
店頭には常に長い行列、売切御免も多い「パーラー江古田」のパン。苦み走ったハードボイルド系の外見に似合わず、いつまでも噛みしめていたくなるふくよかな滋味、料理にもコーヒーにもワインにも寄り添う懐深さを、ぜひこの機会に体感してほしい。
かように、パン好きの熱視線を集める「パーラー江古田」だが、「特にパンが好きだったわけでなく、ましてやパンでこんなに注目されようとは夢にも思わなかった」と話すオーナーの原田浩次さん。15年前に1人で店を立ち上げ、淡々と、熾火のような熱をもってカフェ文化を深めてきた「パーラー江古田」の求心力ともいうべき存在だ。
20代の頃に滞在したオーストラリアのカフェの心地よさに惹かれた経験が、帰国後の開業のきっかけに。自身が好きなスペシャルティコーヒーと、自家製のパンやサンドイッチを揃える、今でいうロースタリー的なカフェを志向していた。
「パンをカフェだけで売り切るのは難しいから、店頭販売も。そうして売れる分だけ作っていたら、自然とパン屋になっていたという(笑)。ただし、出すからには、すべて単品でも専門店に負けないレベルのものであること。採算を度外視しても、その1点を自らに課してきました」
マイルールはパン以外のカフェメニューにも及ぶ。パンの種類とフィリングの組み合わせを選べるパニーニ、季節感あふれるキッシュ、みずみずしいサラダのおいしさには定評があるところだが、具材に使うハムやパテ、サルシッチャに至るまで、シャルキュトリ類はオール自家製という徹底ぶり。肉は京都の熟成精肉店「中勢以」から腿と腕の部位を仕入れ、店で挽き肉に加工する。
「名店の極上品といわれるハムも、スライスしたてでなければ100%の味わいは享受できないですよね。だったら、買ってきたものを挟むのは、店としては不誠実だと考えるようになって。以来、チーズと調味料以外は“誰かがつくったものは使わない”方針に切り替えました」
カフェ離れした時間と理由をかけても、あえて手作りに徹するのには味以外の理由もある。「力のある食材、魅力的な生産者と出会った意味を反映できる料理でありたい」と原田さん。手作りのシャルキュトリも、まず「中勢以」との出会いがあり、その素材の素晴らしさを生かすアプローチとして導き出された答えだったという。値段は決して安くないが、塊で仕入れ、自分の店で加工すればコスト削減は可能。同じ考えからチーズもホールで仕入れ、切り出して使っている。
10年ほど前に出会い、「恋に落ちた」というナチュラルワインも同様だ。ブドウや土地に対する向き合い方、哲学、人生観など、造り手の人となりに対する共感が、原田さんのつくるパンや料理にも変革をもたらしてきた。店で供するナチュラルワインの種類も増え、遂には角打ち兼ワインショップの姉妹店「パーラーさか江」が誕生するまでに。“パン呑み”という名のムーブメントも生まれた。
「とあるワインの生産者が、『世の中にはワインと、"ワインのようなもの"がある。何気なく手にとった1本こそ、本物であるべきだ』と言うのを聞いて、ハッとしたことがあります。カフェは町中華や駄菓子屋と同じ。そこで気負いなく口にする食べ物、飲み物だからこそ、ごまかしのないクオリティであるべきなのだと思います」
遠来から繁盛店となっても、スローな温かさに満ちた「パーラー江古田」の空気感。15年前から変わらない心地よさの正体は、真っ当を貫く覚悟、なのかもしれない。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:堀越典子 撮影:伊藤菜々子