下町の蔵前に店を構える「パティスリーFOBS」からは、看板商品のゴーフレットが登場!素材はもちろんレシピの見直しに余念がない、妥協なきパティスリーがつくる極上スイーツを食べてみてください。
「僕が大事にしているのは丁寧に段階を踏んでつくっていくこと。お菓子のおいしさは、どれだけ愛情を込められるかだと思うんです」
こう語るのは「FOBS」のオーナーパティシエ、安井義則さん。モットーは「個性をもたせながらも、基本に忠実にあること」。そんな思いを示したのが「FOBS」という店名だ。「小麦粉(Farine)」「卵(Oeuf)」「バター(Beurre)」「砂糖(Sucre)」というお菓子の基本材料の頭文字から名付けられている。
「FOBS」があるのは下町・蔵前。ブルーを基調にしたシックな店は、パティスリーには珍しいダンディな雰囲気があり、男性客も多く訪れる。ショーケースに並ぶ生菓子は12種類前後。素材の組み合わせや食感などメリハリのある味わいに引き込まれる。
安井さんがつくるお菓子は、核になる味わいが明確に表現されていて、頭であれこれ考えなくても素直においしさが伝わってくる。「どんなお菓子もそうですが、大事なのはタイミング。同じ材料でもちょっと早かったり遅かったりするだけで、まるで違うものになってしまいますから」。
「dancyu祭」でも販売されるゴーフレットは、まさに安井さんのお菓子づくりの姿勢を体現した逸品だ。しっとり香ばしい薄焼きの生地でバニラが香るバタークリームをサンド。シャリシャリした砂糖の食感が意表をつき、誰もが一瞬で虜になる。
この菓子の元になったのはフランス北部・リール地方の名菓“ゴーフル”。パリでの修業時代に初めて食べて衝撃を受け、「いつか自分の店を持ったら、これを出したい」と熱い思いがたぎった。材料も製法も手探りで試作を繰り返し、完成したのはなんと3年後。果たして、その品は店の看板商品になったのである。
味の決め手の一つは、バターと卵をふんだんに使ったブリオッシュ生地にある。発酵させた後、専用の機械でプレスしながらこんがり焼き上げる。一方、バタークリームには3種類の砂糖をブレンド。風味や形状の異なる砂糖を使うことで、奥行きのある甘さと魅惑の食感が生み出されるという。
今回は、定番のプレーンに加え、通常は店頭に並ばないスペシャルフレーバー2種も登場。その1つ、“ピスターシュ”はプレーンの生地にコクのあるピスタチオクリームをサンド。糖衣を纏わせたピスタチオの粒が潜み、カリカリの歯応えがアクセントに絶妙だ。もう1つは“ジャンドウジャ”。ココアを加えた生地にヘーゼルナッツのプラリネとミルクチョコレートを合わせたクリームを挟んでいる。ナッティーなチョコレート味のゴーフレットはチョコレート好きも必食。これはもう、まとめ買いするしかない。
このほか、フィナンシェ、マドレーヌ、クッキーなどの人気の焼き菓子も勢揃いする。どの品もしっかり焼きこまれているため香ばしさが際立ち口溶けは軽やか。素材の味わいを引き出した豊かな風味と余韻の心地よさにうっとりしてしまう。
開店から7年経った現在も小まめにレシピを見直し、愛情を注ぎ続ける安井さん。手塩にかけられたお菓子は幸せの使者なのである。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:上島寿子 写真:伊藤菜々子、富貴塚悠太