dancyu祭では、季節の天然酵母で仕込んだ、“春の香り”がするパンを販売します。埼玉の住宅街にひっそり佇む「タロー屋」のパンがそれ。遠方からもファンが足を運ぶ、知る人ぞ知る名店なのです。すぐに予約で売り切れてしまうレアな味わいを体験できるチャンス!
八重桜、すりつぶしイチゴ、りんご、金柑、マイヤーレモン……。まるでフルーツパーラーのメニューを眺めるようなラインナップに心踊る。実はこれ、すべて酵母の元となる果実や草花たち。さいたま市郊外の住宅街でひっそりと営む「畑のコウボパン・タロー屋」では、無農薬栽培の自家菜園や庭先で採れる草花やハーブ、果実から起こした天然酵母を使い、酵母の香りを引き立てるパンを焼く。
丁寧にパンを焼くのは店主・星野太郎さん。週2回の窓口販売日に太郎さんとともに店に立つのは、妻の真弓さん、畑仕事を担当しているのは、オーナーのお父さん。家族経営の小さな店の温かさが、庭先まであふれ出している。
天然酵母に魅せられて、前職のデザイナーから独学でパンの世界に飛び込んだ太郎さんが焼くパンは、酵母を主役に味わいが構成されている。「うちのパンは天然酵母ありき。パンのレシピに合わせて酵母をつくるのではなく、四季それぞれに身の回りで手に入る果物や草花で酵母を起こし、その酵母の香りや風味を引き立てるレシピを考案しています」。
「タロー屋」のパンは、いつでも買えるわけではない。窓口販売日は、木曜、土曜の週に2日のみ。お品書きは10数種類前後。メール(事前)や電話(当日)で予約ができるが、住宅街の中の小さなお店にたどり着くのは、なかなか大変だ。dancyu祭は、そんな「タロー屋」の天然酵母のパンを都心で買えるチャンス。しかも祭が開催される春の盛りは、1年で最も天然酵母の種類が豊富に揃う時期。今回は厳選レシピで焼いた5種類を販売する。
有機レーズンと胡桃が入った“レモン酵母のノワ・レザン”、石臼で挽いた全粒粉の生地が香ばしい“八重桜酵母のコンプレ”、いちごの甘味と酸味を感じる“すりつぶしいちご酵母のイングリッシュマフィン”、シナモンとりんごの香りが相性のいい“りんご酵母のシナモンロール”、春ならではの味わいを楽しめる“すりつぶしいちご酵母の食パン”。
特に、短期間しかつくれない八重桜の若葉の酵母を使ったパンは、毎年これを求めて遠方からやって来るファンがいるほどの人気。取材時にも、ご近所の常連さんが「今年の桜のパンはいつ頃かしら」と声をかけていた。春の香りがぎゅっと詰まった宝物のようなパンを、ぜひ味わってほしい。
文:江藤詩文 撮影:富貴塚悠太