近頃話題のパンコントマテをご存知ですか?パンの断面に完熟トマトを塗りつけた、スペイン・カタルーニャ地方の素朴な料理で、味付けは塩とオリーブオイルだけとごくごくシンプル。だけど、じわじわとクセになる不思議な魅力にあふれているのだ。本誌編集長の植野も偏愛するカタルーニャの味を召し上がれ。
「お客様の八割近くが“パンコントマテ”を注文するんですよ」と語るのは、スペイン料理店「ビキニ」を手がけるジョセップ・バラオナ・ビニェスさん、通称ホセさん。パンコントマテは、パンの断面にフレッシュなトマトを塗ったシンプルな一品。日本人にとっての白飯のように、カタルーニャ地方の人々にとっては主食に近いベーシックなソウルフードなのだという。
「にんにくも塗りません。胡椒もふりません。ハーブも使わない。味付けは塩とオリーブオイルだけ」とホセさん。主張は強くないけれど、一口食べるごとにじわじわと素朴な旨さがこみあげ、いつの間にか虜になっている、実に味わい深い料理なのだ。編集長の植野も「死ぬ前に食べたい料理」としてその名を挙げるほど。
この店の看板メニューのひとつは、店名にもなっているホットサンドの“ビキニ”。ちょっと意味深なネーミングは、まさに水着のビキニが由来。ふたつのピースで挟んだものという意味から、スペインでは「サンドイッチ」を指すスラングなのだ。ホセさんのビキニは、さっくりと軽やかな薄切りの食パンに、イベリコ豚の生ハムとモッツアレラチーズ、自家製のガーリックバターをサンドして軽く焼き上げたホットサンドスタイル。
dancyu祭では、つくりたてのパンコントマテ、ビキニのほか、パンでとろみをつけたにんにくのスープ“ソパデアホ”も登場するのでお楽しみに!
ホセさんが手がける六本木「ビキニ・シス」は、東京を中心に全国に6店舗あるスペイン料理店「ビキニ」のうち、2018年9月にオープンしたばかりの最新店。6店舗目なので、店名にはスペイン語で6を意味する「シス」が付いた。一軒目の「ビキニ」が赤坂にオープンしたのは、今から11年前のこと。以来ここ10年で、スペイン料理は日本でも親しみのあるものになった。
これまでの「ビキニ」はカジュアルなアラカルトスタイルが中心だったが、「ビキニ・シス」ではプリフィクスとお任せの3種類のコース(5,400円~)がメインになっている。なかでもぜひ試していただきたいのは、日本では珍しいパスタのパエリア“フィデワ”。こちらもカタルーニャ地方の郷土料理である。油で揚げたパスタを魚介のスープ煮込んでからオーブンで焼き上げたもので、濃厚な魚介の旨味をレモンの酸味がバランスよく引き締める。
常時30種類ほど揃うワインは、すべてスペインのもの。コース料理に合わせたワインのペアリングもお楽しみあれ。
文:江藤詩文 撮影:木村心保