アマゾンの奥地へと足を踏み入れ、生産者との交流から独自のカカオ豆のルートを確立した料理人・太田哲雄さん。厚い信頼を寄せる老上海料理「ミモザ」の南俊郎さんとタッグを組み、カカオの香りや酸味を生かした中華料理として提供する。4月27日(土)、28日(日)開催の「dancyu祭」1階キッチンカーにて、新しい料理の世界が花開く。既成概念を打ち破る料理に括目!
「せっかくやるならみんながイメージできないものを提供したい。dancyu祭でしか食べられないものを生み出して、カカオの新しい世界観を見せたいんです」
イタリア、スペイン、ペルーで経験を積んだ異色の料理人、太田哲雄さんはそう宣言した。
2015年には、アマゾンの小さな村に足を踏み入れてカカオの生産者と交流を図り、独自の入手ルートを確立。カカオをチョコレートに加工するだけではなく、フレンチやイタリアンといった料理の世界にも、食材として広げる活動をしている。
太田さんが扱うカカオは、“フレーバービーンズ”とも称されるほど、上品で香ばしいアロマの立つクリオロ種という品種。無農薬で育てられたそのカカオを細心の気を配って発酵させ、低温でローストする。そうすることで、もともとポテンシャルの高いカカオのフルーティーさ、香りのよさを前面に引き出すことができるのだ。
「みんながイメージできない料理」を体現するべく、コラボレーションを熱望したのは、老上海料理「ミモザ」のオーナーシェフ、南俊郎さん。過去に共通の知人の結婚式で170人前の料理を一緒につくったことがあり、その腕前は周知のこと。その上、南シェフは「ミモザ ギンザ」のデザートドリンクで太田さんのカカオを使っており、すでにアマゾンカカオへの理解があることも大きな理由だった。
dancyu祭のキッチンカーで提供するのは、アマゾンヌードル、アマゾンちまき、そしてデザートドリンクのカカオペチーノだ。今回の祭りのためだけに考案したメニューで、味わえるのはこの二日間限りである。
見た目のインパクトも大きいアマゾンヌードルは、丸鶏でとったスープを張り、カカオの果肉を煮詰めた汁で煮込んだ牛肉をのせる。仕上げに山椒やスパイス、そしてパルミジャーノチーズをすりおろすかのごとく、大胆にカカオの塊をすりおろす。香りはチョコレートだが、味わいは塩気のあるスープの旨味と牛肉のスパイシーさが重層的に重なり、初めてのおいしさを体験できる。
アマゾンちまきは、蒸したての皮を剥くとふんわりと香ばしいカカオの香りが広がる。カカオで炊いた牛肉と、カリカリとした食感のカカオニブを混ぜ込んだ餅米は違和感なく合う。
「中国醤油とカカオのビター感が合うんです。味わいにもぐっと深みが出ます」と南シェフ。
「酢豚や麻婆豆腐でも試作をしてみました。カカオの風味が広がりつつも、調味料とけんかせず本来の味を壊さないので、ソースにもドリンクにもなるんです。味わいに深みがでますし、食材として取り入れる可能性は今後十分にあります」と、カカオを中華料理に取り込んだ感想を意欲的に語る。
「ミモザ」が謳う老上海料理とは、古い上海の料理の意味。南シェフが研鑽を積んだオールド上海の料理を提供する。現地で見てきたものや、南シェフのオリジナル料理もある。"上海の香り"をテーマとした料理は、どれも軽やかかつ清らか。無駄なものを加えない、澄んだ味わいが特徴だ。
シンプルだからこそ、素材の良し悪しがものをいい、料理人の腕も如実に表れる。「ミモザ」のように、疲れたときにこそ食べに行きたくなる、細胞にしみわたるような清らかな中華料理店はなかなかない。
カカオと中華の新しき世界を体感できるこの機会。普段とはまるでアプローチの異なる、名シェフの料理を体感しに、dancyu祭へ!
文:沼由美子 写真:長谷川潤