
創刊36年の歴史の中で突出した、これぞ殿堂! と誰もが唸る極上の味。“じゃがいもレジェンド・レシピ”企画では、最高峰の技と愛がぎゅっと詰まった渾身の4皿をご紹介します。三皿目は、「オー ギャマン ド トキオ」のポテトの温菜。シンプルだけど難しい、何度でも試したくなる名品です!
店で大人気のじゃがいも料理である。「簡単なんです。でもきっと、一度でうまくはいかないと思いますよ」と唇の端に笑みをつくる木下威征シェフ。
果たして、そうなのだろうか?
悔しいが、そうなのだ。
材料は、ゆでたじゃがいも、バター、スープにシェリービネガー、塩といったところ。材料をすべてフライパンに入れて火にかけるだけというから、さして難しいことはないはずだ。唯一手をかけることと言えば、ひたすらフライパンをゆすり続けること。しかしこれとて素人でもできる技。一見簡単に見えるこの料理、実は完成品としてのピークが非常に短い。火からおろすタイミングがすこぶる難しいのだ。水分とバターが乳化して混ざり合い、程よく煮詰まった頃合いを見極め、ソースが分離する直前にさっと皿に盛る。
その瞬間に生まれる、シェリービネガーの角のない酸味とバターの芳醇な香りの素晴らしいこと! 温かいドレッシングのようなソースの中に映える、ほのかに青さを残した新じゃがの味も絶妙だ。一度、二度、三度と、納得いくまで試したい。


| じゃがいも | 小3個(約90g。*1) |
|---|---|
| バター | 50g(食塩不使用) |
| シェリービネガー | 35ml(*2) |
| エシャロット | 小さじ1(玉ねぎで可。みじん切り) |
| 塩 | ひとつまみ(約2g) |
| 旨味調味料 | 1g(*3) |
*1 使用した芋は「ニシユタカ」という品種。煮くずれしにくく、口当たりの印象は、男爵よりメークインに近い。適度な粉っぽさがあるほうが乳化しやすいので、熟成してねっとりしたものより、煮くずれしにくい新じゃがが向く。
*2 シェリービネガーの質も重要。 ぜひ長期熟成させたこっくりしたものを使いたい。バルサミコ酢や黒酢でも可。
*3 店ではチキンスープを使用するが、スープの風味によって味が左右されるので、家庭では水と旨味調味料で代用するのが無難。
じゃがいもは皮付きのまま水からゆでる。

竹串を刺してすっと通るまでゆでたら火からおろし、熱いうちに皮をむき、約1cmの厚さに切る。

小さめのフライパンに、切った芋と残りの材料すべてと水70mlを入れる。

強火にかけて、バターが溶け始めたら、円を描くようにフライパンをゆすって軽く混ぜる。いったんゆする手を止め、水分量が半分近くに煮詰まってきたら、再びゆすり始める。

そのままフライパンをゆすり続け、液体を乳化させていく。写真のように煮詰まってきたら出来上がり。くれぐれも分離するまで煮詰めないよう注意。


文:浅妻千映子 撮影:伊藤菜々子