
創刊36年の歴史の中で突出した、これぞ殿堂! と誰もが唸る極上の味。“じゃがいもレジェンド・レシピ”企画では、最高峰の技と愛がぎゅっと詰まった渾身の4皿をご紹介します。一皿目は、「ジョエル・ロブション」のポテトピュレ。見た目から圧倒される、まさに魅惑の一品です。
偉大なる世界的フランス料理人、ジョエル・ロブション氏の名を一躍有名にした“ポテトピュレ”。多くの美食家を虜にし、世界中のジョエル・ロブションのレストランで提供され、そのおいしさにお代わりを希望するゲストもいるという。安価で庶民的なじゃがいもを、氏はこのピュレを創り上げることで、高貴さを備えた食材へと昇華させたのである。ロブション氏が「じゃがいも大使」「じゃがいもの申し子」を自負していたのも納得だ。
実は幼少時代、好き嫌いが激しく、ほとんど食べられるものがなかったロブション氏にとって、じゃがいもは、赤身肉と並ぶ二大好物だったのだとか。加えて無類のバター好きで、若い頃は一日250gを食べていたという驚きの事実もある。そんな話を聞くと、このポテトピュレが編み出されたのは必然だったのかもしれないとも思う。なぜなら、この一品には、じゃがいもとほぼ同量という、驚くほど大量のバターが入っているのだから!

つくり方を再現してくれたのは、東京・恵比寿の「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」のエグゼクティブシェフ、関谷健一朗氏だ。彼が用意した材料は、じゃがいもとバター以外には、牛乳と塩だけ。しかし、これらのシンプルな材料から、憧れの店の一品は容易には出来上がらない。残念ながら、ゆでたじゃがいもに、ただただ大量の溶かしバターを混ぜ込んでもだめなのである。
ポイントになるのは、バターの扱いだ。温度管理には細心の注意を払わなくてはならない。使う直前までバターはしっかり冷やしておく。一方で、じゃがいもにバターを混ぜ込む鍋は、常に温かく保つこと。しかし温度の上げすぎは禁物。高温でバターが分離すれば、あっという間にその風味は消え失せてしまうのである。じゃがいもとバターが見事一体になったときにだけ、このピュレは、何とも言えない豊かな香りと舌ざわりの、まさに絶品の一皿となる。そしてわれわれの前に運ばれるのだ。
たとえば“牛肉の赤ワインソース”という料理のソースを思い出してほしい。液体がバターで見事につながり、少しも分離しておらず、鏡のように光る風味豊かなソースを。当然、簡単にできはしない。じゃがいもをバターでつないだこのピュレは、そう、まさにフランス料理のエッセンスが詰まった、ソースがごとき一品なのである。

| じゃがいも | 500g( *1) |
|---|---|
| 牛乳 | 200~250ml |
| 発酵バター | 350~500g(食塩不使用、*2) |
| 塩 | 6g |
*1 でんぷんが少ないじゃがいもを使用(今回はメークイン)。ゆでる水の塩分濃度は1.5%程度で、パスタをゆでるときよりしょっぱめ。店では岩塩を使用している。
*2 バターは角切りにし、冷やしておく。バターが冷たくないとなめらかに仕上がらないので注意。基本レシピはバター350gだが、仕上げにどんどん加えるので、500g近くになることもある。
鍋にたっぷりの水と塩(分量外)、じゃがいもを入れて火にかける。芋がわずかに揺れる程度の温度をキープ。25分程度、竹串がすっと通るまでゆでる。

手早く鍋から上げて、皮をむく。表面の薄い皮だけをむくのがベスト。2cm程度の厚さに切る。

ムーラン・ア・レギューム(手動裏漉し器、裏漉し器で代用可)で裏漉しする。裏漉し器を使う場合、なるべく粘りを出さないように、ヘラを引かずに、押しつけるのがポイント。

裏漉し作業の合間に、小鍋に牛乳を入れ、70~80℃に温めておく。沸騰させないよう注意!

裏漉しが終わった状態がこちら。芋が冷めると粘りが出るので、熱いうちに手早く作業すること。

鍋に⑤のじゃがいもと分量の塩を入れて火にかけ、水分を軽くとばしてからバター70g程度と温かい牛乳50ml程度を加える。

弱火で温かい状態をキープしながらヘラで混ぜ、重くなってきたら牛乳を加えて粘度の調節をする。牛乳は常に温かいものを使うこと。

バターを加えては混ぜ、適宜牛乳を加えてさらに混ぜるという作業を繰り返す。加熱しすぎるとバターが分離するので気をつけよう。

バターをおよそ350g投入したら、ヘラをホイッパーに替えて空気を含ませるように混ぜる。バターや牛乳を追加して微調整。

なめらかになったら、裏漉し器で漉す、ヘラを引かずに押しつけるようにして漉すこと。

漉し終えたら、鍋に戻して弱火で加熱し、とろりと垂れるくらいに仕上げる。

皿によそい、スプーンで手早く模様をつけたら完成。


文:浅妻千映子 撮影:伊藤菜々子