刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
【脂少なめで旨味が凝縮】干物の四番打者「エボダイ」を、見栄えのいい"背開き"で極める

【脂少なめで旨味が凝縮】干物の四番打者「エボダイ」を、見栄えのいい"背開き"で極める

伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんに習う干物づくり。今回は干物の定番でもあるエボダイ(イボダイ、シズ)。丸っこくてかわいい顔が特徴だ。見栄えのいい背開きに。脂は少なめ。でも、旨味はギュッと凝縮。まるで自己主張の強い四番打者みたいな干物が出来上がりました。

しっとりとした濃い味は格別!希少な国産エボダイを、見栄えのいい背開きに

鮮魚として見かけることは少ないが、スーパーや魚市場の干物コーナーでは定番という魚がいる。エボダイだ。正式名称はイボダイ。西日本ではシズとも呼ばれる。水分が多くて鮮度落ちが早いけれど旨味が強いので干物に向いているのだろう。
「ウロコが少なくて、皮も身も頭も柔らかい魚です。僕はエボダイの干物は頭ごと食べちゃいます。2年前には全国的にほとんど水揚げされない年がありました。今でもたくさん獲れているわけではありません」
エボダイが少なくなっていることに顔を曇らせるのは、我らが干物師匠の内田清隆さん。海外から近種が輸入されているけれど、国産のしっとりとした濃い味は格別らしい。今回は相模湾の定置網にかかった貴重なエボダイを冷凍しておいてくれた。頭ごと食べたくなるような美味しい干物をつくらなくちゃ……。

魚

顔が丸っこくて可愛いエボダイ。そんなルックスのいい魚は背開きにするのが島源商店流だ。背側から開くとフォルムが左右対称に丸く仕上がり、見栄えがよくなる。
「エボダイは腹の皮が柔らかいです。破れやすいので注意してください」
控えめに指導してくれるのはスタッフの鈴木さん。忙しいときは1日に1000匹以上もさばくというプロだ。包丁を握るとほぼ自動的に魚をどんどんさばいてしまうので、カメラマンの牧田さんと一緒に「はい、そこでストップ!」と言いながら、その滑らかな動作のコツを書き留めた。

「腹の皮」には優しく。プロの流れるような包丁さばきを盗む

エボダイはウロコが細かくて取れやすい。一度冷凍して解凍したものはほとんどウロコが取れているので、ウロコを取り除く作業は要らない。腹を破らないようにという鈴木さんからの注意点を念頭にさばいていこう。

1首から尾まで切り目を入れる

体に対して魚を縦に置く。背びれの少し上に包丁を入れ、首(頭のつけ根)の後ろから尾まで切り目を入れる。中骨の上に刃先が当たるようにしながら尾まで引いていく。

首から尾まで切り目を入れる

2深く切り込む

手で広げながら背骨の向こう側まで切り込む。このときも、中骨の上に刃先が当たることを意識する。腹の皮まで切ってしまわないように注意。

深く切り込む

3頭を割る

頭を手前になるよう置き直し、包丁の刃元を使って頭を割る。力を入れすぎると頭を腹側まで割ってしまうので注意する。

頭を割る

4身を押し開く

頭から内臓までを、手と包丁で押し開く。キレイに開かないときはもう一度包丁を入れ直す。

身を押し開く

5内臓を取り外す

えらぶたに指を入れて、手でえらごと内臓をかき出す。

内臓を取り外す

6水で洗う

使い古しのハブラシを使って、真水を入れたボウルで血と内臓を取り除く。

水で洗う
鈴木さん、大宮冬洋さん
「包丁が背骨を越えたあたりで包丁の角度をつけて、腹骨を断ち切るようにしてください」「なるほど!」

エボダイと純米酒。口の中で「ツッパリ同士」が認め合う

さばき終えたエボダイは、大きさ、鮮度、脂ののり具合から塩加減を検討する。今回のエボダイは「塩分濃度8%の塩水に8分間浸ける」と鈴木さんが宣言した。
浸水時間が意外と短いと思ったが、手のひらサイズのエボダイは皮も薄くて身も柔らかく、脂も多くない。解凍ものを開きにしているので、塩が入りやすいのだろう。鈴木さんによれば「エボダイは8分間」は先輩スタッフから引き継がれた塩加減らしい。島源商店に蓄積されたノウハウなのだ。
塩水に浸けた後の水洗いはサッと数秒間でOK。表面の塩分だけ軽く落とし、これ以上塩が入らないようにするだけだ。
この日の伊東は気温15度。干物づくりにはほどよい気温だけど、風が15メートルほどもある。海には白波がたっていて、島源商店の屋上は真っすぐ立っていられないほどだ。
「こんな日は干物を外に干せません。風で飛ばされてしまうからです」
内田さんの指示により、魚を並べた網を平置きして建物の陰に避難させた。それでも風で魚がブルブルと振動している。でも、角度をつけられずに日も当たらないので干し上がりには2時間ほどかかった。

干物
干し上がったエボダイ。背開きゆえ左右対称の均整のとれたフォルムになった。

ほど良い水分を保って仕上がったエボダイの干物。焼いてくれるのは、釣り好きで魚料理も得意なカメラマンの牧田さん。チンチンになるまで予熱した網で皮目から強火で約5分。「時間は適当ですよ。皮目を見て、美味しそうに焼けていたらひっくり返すだけ」

干物

焼きたてをパクり。旨い!脂は少ないけれど、その分だけむしろ旨味がダイレクトに伝わってくる。塩で旨味がさらに引き立てられ、水分がほどよく抜けたことで身が引き締まっているのだ。
ほのかな酸味も感じるエボダイの干物。酒と合わせてみたい。島源商店と伊東駅の間ぐらいの位置にある「今井酒店」に干物に合う酒を聞いたら、藤枝市の「志太泉」という銘柄を勧めてくれた。しっかりとしているがキレもある純米酒だ。
さっそく試してみると、エボダイの干物と「志太泉」は一体化しないところが面白いと感じた。お互いに主張して譲らず、だけど相手の良さをダメにすることもない。ツッパリ同士が初対面で激しくぶつかってからやがて認め合っているようなイメージだ。
「芋焼酎の炭酸割りとかも合うかも」
元バーテンダーでもある牧田さんは、今日は車の運転があるので脳内でペアリングしてくれる。
旨味の塊みたいなエボダイの干物。いろんな酒と合わせて、自分なりのベストパートナーを探してみたい。

干物
大宮冬洋の干物日記
エボダイの干物と合う酒を探してみた。焼酎の水割りが一番だった
○月△日

島源商店で作ったエボダイの干物を持ち帰り、自宅にあるいくつかの酒で相性を探ってみた。「志太泉」とは方向性の違う日本酒(鯖専用日本酒のSABA de SHU)、缶ビール(エールビール)、オレンジワイン、芋焼酎(山猪)。
まずは日本酒。酸度が高い酒のほうが合うかなと思ったけれど、エボダイの干物とはさほどなじまなかった。
次にビール。これは失敗。もっと塩気が強い干物だったらよかったかもしれないが、高級旅館にも卸している島源商店の干物は総じて塩分控えめ。ビールの苦味が干物の味をかき消してしまった。
オレンジワインも日本酒と同様。強めの酸味が邪魔に感じてしまう。エボダイの干物、意外と難しいぞ。
正解は、カメラマンの牧田さんおすすめの芋焼酎だった。ほのかな甘味がエボダイの旨味を包み込み、引き立ててくれる。優しいお母さんがヤンチャな息子を見守りながら育てているようなイメージだ。
炭酸割りもいいけれど、我が家は水割りが好みだな。エボダイ2匹で4杯も飲んでしまった。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。