シンプルな調味料だけでつくる炒め煮ですが、そのじんわりとした旨味に食がどんどん進みます。横浜の人気パン屋「ベッカライ徳多朗」を営む徳永久美子さんに、しみじみおいしい日常おかずを教えてもらいました。
横浜に「ベッカライ徳多朗」というパン屋があります。地元のみならず遠方からも多くの人が訪れ、夕方にはほぼ完売という人気店。夫婦2人で始めた対面式の小さな店を、30年かけて30人を超えるスタッフを抱えるまでに成長させ、同時に一女二男も育て上げたのが、オーナーの徳永夫妻です。「ときには店で小麦粉の袋を枕に寝たこともあった」というほど多忙な日々のなかで、妻の徳永久美子さんが決して欠かさなかったのが、夫と3人の子供たちのための食事づくりでした。
「いつも考えていたのは、スポーツに励んでいた子供たちのために、スタミナがついて消化がいいものを、ということ。もちろん毎日のことだから、つくりやすさも大前提。そんな観点から生み出したレシピがたくさんあるんです」と徳永さん。夜のうちに煮込んでおいたり、料理の素のようなものをストックしたり、アレンジ方法を生み出したり。忙しく働く母ならではの家庭料理には、参考になるアイデアがたくさん詰まっています。
もともと子供の頃から料理好きだったこともあり、「レシピを考えるのは楽しい」という徳永さん。店で賄いをつくる機会も多く、人気のメニューはスタッフからレシピを聞かれることも多いのだとか。こんなふうに長年つくってきたレシピを、『おいしいおはなし・お料理ノート』と題し、年4回文章と写真にまとめて発信中。家族やスタッフに人気のおかずレシピに加えてパンやデザートのつくり方、季節の手仕事……と、盛りだくさんの内容に、全国のファンが多数いるのです。
今回はその『おいしいおはなし』に掲載されて好評だったレシピ、毎週つくっているという定番レシピを、たくさんのアレンジアイデアと一緒に教えていただきました。撮影当日、笑顔でちゃきちゃきと料理をする徳永さんの傍らで料理のアシスタントをしてくれたのは、長男の将生さん。「ベッカライ徳多朗」のスタッフとして働きながら、休日にも自宅でパンを焼くほど研究熱心だそうです。「学生の頃は部活ばかりで料理なんてしなかったのに、始めてみたら楽しいみたいで。やっぱり食いしん坊だからかな」
徳永さんの愛情料理を食べて育った子供たちは、成人した今も仲がよく、徳永家の食卓はいつも笑顔に満ちている様子。おいしい手料理は家族の絆も育ててきたに違いありません。
『お弁当のおかずというと、何が思い浮かぶ?』と子供たちに聞いたら、3人が口を揃えて『牛肉とひじきの炒め煮でしょ』と答えました。そんなによくつくっていたんですねぇ。
わが家では食パンに挟んでサンドイッチにするのがお気に入り。紅生姜と、味をつけずにただ焼いただけの薄焼き卵がなぜだかよく合うんです。
長ひじき | 大きくひとつかみ(水で戻す) |
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牛肉 | 100g(こま切れ/脂少なめのもの/ざく切り) |
生姜 | 大1片分(せん切り) |
胡麻油 | 大さじ2 |
A | |
・ 酒 | 大さじ3 |
・ みりん | 大さじ3 |
・ 醤油 | 大さじ3 |
フライパンを火にかけ、十分に熱したところに油を入れ、牛肉と生姜を入れて香りが出るまで炒める。
ひじきを加え、Aを順に加える。汁気がほぼなくなるまで炒め煮にする。途中、味をみて足りないようなら、醤油(分量外)で味を調える。
栄養専門学校と調理専門学校を卒業後、大手ベーカリー勤務を経て、「ベッカライ徳多朗」(神奈川県横浜市青葉区元石川町6300-7)を夫とともに営む。著書に『パンを楽しむ生活 おいしいおはなし』(主婦と生活社)、『わが家のパンと料理とおいしい食べ方』(毎日コミュニケーションズ)など。
※この記事の内容は、『四季dancyu 2022冬』に掲載したものです。
文:藤井志織 撮影:宮濱祐美子