イタリア料理の前菜「アンティパスト」で定番のバーニャカウダ。日本でもお馴染みですが、本場のものは大ボリュームなんです。乳製品や米、生ハムといった特産品を使ったしっかり旨味のある北イタリアの家庭料理を、料理家の山内千夏さんに習いました。
日本で味わえる世界の料理のなかで、とりわけ人気が高いイタリア料理。現地で修業したシェフが腕を振るうレストランから気軽なファミレスまで幅広く親しまれ、家庭ではパスタが日々の食卓にすっかり浸透しています。
イタリアの家庭料理と聞いて頭に浮かぶフレーズが“マンマの味”。お母さんが腕によりをかけた料理を大勢の家族が囲む、明るく温かい光景をイメージする人も多いはず。
「いまのマンマは共働きをしている人も多いので、特に都市部の人たちは日本と変わらず、日々の料理には手をかけすぎません。私たちがイメージするようなマンマの料理は、ノンナ(おばあちゃん)の料理になりつつありますね」と山内千夏さんは言います。
かつて20代のイタリア旅行でかの地の料理に魅せられたことをきっかけに、イタリア料理にどっぷりと浸かった山内さん。北イタリアの料理学校での研修をはじめ、数カ月単位でのイタリア滞在を何度も繰り返しながら、レストランの料理ではない家庭の味を知るべく、現地でできたつてを頼りに、北から南まで、料理上手と評判のマンマやノンナたちを訪ねては、料理を習ってきました。
イタリア料理のコースはアンティパスト、プリモピアット、セコンドピアット、ドルチェという流れ。プリモピアットはパスタやリゾットなど、セコンドピアットはメインの肉料理などで、すべて食べたらかなりのボリュームです。
「さすがに平日からフルで食べることはあまりないですね。朝はごく簡単にすませ、昼はパスタと野菜など。昼休みが長い人はいったん家に帰ったり、外で食べたりします。夜は意外に軽くて質素なんですよ。さっと焼いた肉と野菜とか、具だくさんのスープとパンを食べて終わり。サラミやチーズは常備しているので、足りなければそうしたものをつまみます。コースでしっかり食べるのは日曜日。田舎のほうなら特に、午前中は家族で教会のミサに出かけるのがお約束。独立した娘や息子も帰ってきて、帰宅後に全員でゆっくりと、3~4時間かけて食事を楽しみます」。
イタリア料理とひと口に言っても、縦に細長い国の州それぞれ、その土地ごとに多様な料理が存在します。今回教わったのは、北イタリアで親しまれる冬の家庭料理。ミラノやトリノといった大都市を思い浮かべますが、北部はスイスやオーストリアなどと国境を接し、山がちで冷涼な気候に加え、ポー川という、北部を横断するイタリアでいちばん長い川の流域で米作や酪農、生ハムなどの生産が盛んです。料理にも乳製品や塩蔵肉がたっぷり使われ、パスタも手打ちの生パスタが中心。リゾットなど米料理もよく食べられます。
「工業や商業が発展している北部には、南部から進学や就職で移住する人も多いんです。生活スタイルも変化して、イタリア全体でも地方料理は徐々に崩壊し、平均化した料理になってきつつあると感じます。けれども、トマトソースひとつとっても、北では仕上げにバターをたっぷり。ちょっとしたところに地方性が垣間見えて、へえ~!ってなるところがまた、楽しいし、魅力的なんですよね」
久しぶりに家族みんな集まって食事をしたくなる、やさしくて温かい皿ばかり。次の日曜日はぜひ、腕によりをかけてみてください。
日本でも親しまれるバーニャカウダはピエモンテ州の料理。人が集まる日曜日などにつくります。本場式はこれだけでお腹いっぱいになるほどボリューム満点。菊芋があるとより現地らしくなります。手に入ったらぜひ入れてみて。
★ バーニャカウダソース | |
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・ にんにく | 正味50g |
・ 牛乳 | 適量 |
・ アンチョビ | 50g(油をきっておく) |
・ EXV.オリーブオイル | 150ml |
・ 塩 | 適量 |
・ 胡椒 | 適量 |
野菜 | 好みのものを好きなだけ(セロリ、パプリカ、ラディッシュ、にんじん、カリフラワー、ブロッコリー、トレビス、チコリ、じゃがいも、ビーツなど) |
にんにくは縦半分に切り、芯を取り除く。小鍋に入れて、にんにくがちょうどかぶる程度の牛乳を入れて弱火にかける。沸騰したらふつふつと沸く火加減で2~3分加熱し、牛乳をゆでこぼす。新たに冷たい牛乳を入れ、同様に加熱してゆでこぼす作業を4~5回繰り返し、にんにくをやわらかく煮る。
ミキサーに1のにんにく、アンチョビを入れ、オリーブオイルを少しずつ垂らしながら撹拌し、なめらかなピューレ状にする。塩、胡椒で味をととのえる。
セロリ、パプリカ、にんじんはスティック状に切り、トレビス、チコリなどは食べやすい大きさにちぎる。じゃがいもは皮ごとゆでて食べやすく切る。ビーツはアルミ箔を巻いて160℃に予熱したオーブンで約1時間、竹串がすっと入るまで焼いてから皮をむき、厚さ1cmに切る。カリフラワー、ブロッコリーは小房に分け、塩ゆでする。
2のソースを小鍋で温めて容器に入れ、野菜につけながら食べる。
やまのうち・ちなつ●料理家。製菓メーカーで商品企画に携わった後、イタリアへ料理留学。以降、定期的に現地で家庭料理を学んでいる。湘南の自宅で料理教室を主宰。著書に『トルタ・サラータ イタリア式塩味のタルト』(文化出版局)など。
※この記事の内容は、四季dancyu「冬のレシピ」に掲載したものです。
文:鹿野真砂美 撮影:宗田育子