辻家には、「シーザーサラダ」をつくる上で重要なことがあるという。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった“パリ・サラダ”のレシピです。
今日はみんな大好き、シーザーサラダだが、古代ローマのジュリアス・シーザーの好物だと思っていたら、どうも俗説らしく、実際はイタリア移民のシーザーさんが1920年代にメキシコで作ったのが起源とされている。その辺の細かいことは置いといて、今、少なくとも、フランスのどこのカフェに入っても、この「シーザーサラダ」らしきものは存在する。シーザーさんが考案した頃の「シーザーサラダ」にはアンチョビが使われていなかったという説もあるが、現代のものとどのくらい味が異なっていたのかはわからない。しかし、移り行く時代にかき消されることもなく、人々の舌を喜ばせながら、こうやって生き残り続けた偉大なサラダに、拍手をおくりたい。ぼくはなんといっても、シーザーサラダには目がないからである。
パリのカフェで出される「シーザーサラダ」にはだいたい鶏肉が添えられている。二種類あって、チキンフリット載せ、もしくは、グリルチキン載せなのだが、ぼくは圧倒的にフリットの方を好む。理由はいくつかあるのだけれど、ソースににんにくとアンチョビが使われているせいか、ビールによくあうのだ。ロメインレタスは、お行儀悪く指でつまんでしゃきしゃき齧りながら食べるのが好きだ。それとビールの相性も抜群で、そこにチキンフリットが加わると、もう、完璧なのである!しかも、パルミジャーノチーズとクルトンもかかっているので、ビールがどんどん進むという具合である。暑くて食欲のない夏なんかに、カフェのテラス席で、このサラダとビールというのがぼくの定番ランチなのであった。
辻家のシーザーサラダにおいて、重要な点は以下の三つ、
①クルトン。
②フリット。
③ドレッシング。
である。
細かいことを言えば、ロメインレタスであれば最高だけど、普通のレタスでもぼくは気にならない。
なぜ、クルトンが一番大事か、と言うとその食感である。ぼくが今回のレシピの中で、皆さんに一番頑張ってもらいたいのが、このクルトンだ。ガリっガリっと頭骨全体に響き渡る破壊的な食感に、プロヴァンスのハーブが口腔全体に持ち込む香りの奥行がすさまじい。これがにんにくとアンチョビのドレッシングが絡まったロメインレタスのシャリシャリ感と奏でるビート感が小気味いい。ジャンベとコンガのリズム・セッションだ。その食感の後に、ビールを飲んで、その後に、サクサクのフリットをつまむと、もう、頬っぺたが落ちそうになる。ガリっガリっ、シャリシャリ、サクサク……。これは、はっきり断言しよう。こんなに人を楽しませるエンターテインメントサラダは他にはない!
前置きはこの程度にして、それでは、さっそく、作ってみましょうか。
レタス | 100g(あれば、シュクリーヌレタスかロメインレタス) |
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パン | 少々(バゲット) |
パルミジャーノチーズ | 適量 |
黒オリーブ | 適量(種なし) |
ささみ | 4本 |
★ マリネ液 | |
・ 白ワイン | 大さじ1 |
・ レモンの搾り汁 | 小さじ2 |
・ オリーブオイル | 大さじ2 |
★ フリットの衣 | |
・ 小麦粉 | 大さじ2 |
・ 片栗粉 | 大さじ1 |
・ マヨネーズ | 大さじ1 |
・ ベーキングパウダー | 小さじ1 |
・ 水 | 50~80ml |
★ ドレッシング | |
・ アンチョビ | 1本(フィレ) |
・ マヨネーズ | 大さじ1 |
・ レモンの搾り汁 | 小さじ1 |
・ にんにく | 1片(つぶす) |
・ オリーブオイル | 大さじ5 |
塩 | 適量 |
胡椒 | 適量 |
まず、レタスは洗って水気をよくきっておく。
バゲットを好みの大きさに切り、半分に切ったにんにく(分量外)をバゲットにこすりつけて香りをつけておく。オーブンシートを敷いたオーブン皿にそれらを並べ、上からオリーブオイル(分量外)をまんべんなく回しかけ、塩少々、プロヴァンスハーブ(分量外)を少しふりかけて180度に予熱したオーブンで目安10分くらい、焼く……。(焼き加減が大事なので、焦げないよう、じっと様子を見てほしい)
ささみの筋を取り、塩、胡椒、マリネ液をからめマリネしておく。白ワインがなければレモン汁とオリーブオイルだけで良い。
フリットの衣の材料を合わせ、パンケーキくらいの硬さの衣をつくる。マリネしたささみを衣にくぐらせ、180度くらいの油でしっかり揚げる。
ドレッシングの材料を小さなボウルに入れ、ハンドブレンダーでつぶしてドレッシングをつくる。
この、①,②,③の行程さえきちんと踏めば、完全完璧なシーザーサラダができるという寸法である。
レタスにドレッシングをからめて皿に盛り、クルトン、オリーブ、薄くスライスしたパルミジャーノチーズ、チキンのフリットをのせれば完成なのだ。
できれば、ぎんぎんに冷えたビールか、白ワインで、楽しんでいただきたい。え?シャンパーニュ?あはは、言わずもがな、であろう。
ボナペティ!!!!!
文:辻仁成 撮影・協力:Miki Mauriac