辻 仁成の“パリ・スープ”
辻 仁成の"パリ・スープ"|第十四回"オニオングラタンスープ"

辻 仁成の"パリ・スープ"|第十四回"オニオングラタンスープ"

作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。

王様が発明したオニオングラタンスープ

オニオンスープ(Soupe a l'oignon)は古代ローマ時代から存在したと言われています。オニオンは手がかからず勝手に育つので、驚くべきことに当時から庶民に愛された野菜でした。そして、玉ねぎは料理文化の進化と共に欧州の人たちの舌と心を魅了し続けることになるのです。古代ローマの人たちにも愛されていた玉ねぎ、期待が膨らみますね。

さて、本日の「食べるスープ」はまさに、お腹いっぱいになるオニオングラタンスープの登場です。ぼくはこれを25歳の時、はじめて渡ったフランスで食べ、そのあまりの香ばしさと美味さと濃厚さと深みに言葉を失いました。
現在のオニオングラタンスープ(玉ねぎをキャラメリゼし、ビーフブイヨンで煮込み、クルトンにチーズを載せて焼いたもの)が生まれたのは、17~18世紀頃じゃないか、と言われています。さらに、いろいろと文献を調べているうちに、面白いエピソードと遭遇しました。諸説の中の一説に過ぎないのですが、なんともロマンのあるお話しなので、ご紹介したいと思います。

実は、ルイ15世がこのオニオングラタンスープを発明したというのです。びっくりですね。その文献によると、夜中、小腹が空いたルイ15世がキッチンを漁ったところ、玉ねぎとバター、そして、シャンパーニュが出てきました。当時からシャンパンがあったんですね。そこで、ルイ15世はこの三つの食材を使い、最後にパンとチーズを加え、オニオングラタンスープを作った、のだとか。この説が真実であるならば、本当のレシピは白ワインではなく、シャンパーニュだった!?ということになりそうです。

ともかく、オニオングラタンスープは王室で親しまれたスープであることに間違いはありません。夜会の後、ワインを飲み過ぎた翌日に食べる、二日酔いに効くスープだったと言われています。日本人の胃袋からすると、二日酔いに効くというのはにわかに信じがたいですが、フランス人の胃袋は我々とは根本からレベルが違うので、あり得る話しだな、と思いました。

さて、そこで、今回は王様が作った18世紀のオニオングラタンスープを多少意識しながら、辻家定番食べるスープをご紹介したいと思います。中学時代、バレーボール部キャプテンだった息子君の胃袋を満たし続けた、実にシンプルだけど、ゴージャスな一品となります。

辻仁成さんの絶品オニオングラタンスープのつくり方

材料材料

玉ねぎ300g
バター20g
固形ブイヨン1個(ビーフ)
500ml
白ワイン50~70ml
好みのハーブ適量((タイムやローリエなどがあれば))
ナツメグ適量(あれば)
適量
胡椒適量
バゲット適量(もしくは食パン)
にんにく1片
グリュイエールやエメンタールなどのチーズ100g
材料

1玉ねぎを炒める

まず、玉ねぎはなるべく薄くスライスし、ココットにバターを溶かし玉ねぎを炒めます。

炒める

2白ワインを加える

玉ねぎが鍋にじりじりとこびりつき始めたら、白ワインを少しずつ加えて、焦げ付き部分を溶かしていきます。鍋に焦げ付いたものは鍋についた旨味であり、それをフランスでは「sucs(シュック)」と呼びます。それをワインや水など水分で溶かすことを「deglacer(デグラッセ)」と言うんですよ。

白ワインを加える

3煮込む

白ワインがなくなったら、少しずつ水(分量外)を加えてデグラッセしながら玉ねぎがキャラメル色になるまでじっくり20分程度炒め続けてください。玉ねぎがいい感じになったら水とブイヨンを加え、好みのハーブを加えて煮込むのです。途中でスープの状態を見ながら、お好みで、水を足しても構いません。

味を整える

4味を調える

20分ほど煮込んだら味見をし、ナツメグを少々、塩、胡椒で味を調えたら。

5パンをトーストする

パン(硬くなったもので良い)をトーストし、表面ににんにく(半分にカットし、その切り口)を擦り付け、香りを移します。

パンをトーストする

6オーブンで焼く

ココット鍋やオーブン対応の器にスープを注ぎ、パンをのせ、チーズをたっぷりかけて200℃のオーブンで10分ほど焼く。

オーブンで焼く

7完成

表面が良いキツネ色になったら完成となります。どうです?王様、この出来栄え、ご満足いただけましたでしょうか?
「満足じゃ、くるしゅうない、みんなでたべてごらん、ボナペティ!」

完成

文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac