「ル・マンジュ・トゥー」谷シェフの胡椒クッキング
香り高いポークソテー

香り高いポークソテー

「胡椒は、魔物です。間違った使い方をすると、とんでもないことになる」と、その料理哲学に信奉者の多い谷昇シェフは語る。「塩・胡椒」とセットで使うなんてもってのほか。胡椒の特質を知ってこそ、使う意味あり。谷シェフ、胡椒との付き合い方を教えてください!

谷 昇シェフの胡椒哲学

「胡椒は大好きですよ。でも普段、厨房ではあまり使いません。フランス料理において︑胡椒はあってもなくてもいいものだからです」。のっけから、谷シェフの意外な発言。胡椒の香りや辛さが欠かせない料理は、実はフレンチにはほとんどないという。

「だからこそ、胡椒は面白いんですよ」。

胡椒は、世界中に数多ある香辛料の一つだ。「それなのに、われわれ日本人にとって当たり前の存在になっていて、『塩・胡椒』なんてセットにした言葉を平気でみんな口にする。胡椒は香辛料。一番に、香りを求めるものでしょう?」。塩は無機物で熱に強い。でも、胡椒は有機物で熱に弱い。加熱しすぎればせっかくの香りがとんでしまうし、苦味やえぐみ、焦げ臭さが増してしまう。ゆえにシェフは、肉を焼く前に「塩・胡椒」で下味をつけることを、しない。

たとえば、ポークソテーのレシピでも、下味は塩だけで、胡椒をふるのは肉が焼けてから。「胡椒は加熱しすぎると香りがとぶと言いましたが、少しだけ加熱することで、いい香りがぐんと立ち上ります。その一瞬の香りを捉えたら、火からおろします」。ダラダラ焼いていてはダメ。かといって、皿に盛ってから胡椒を挽いてもダメ。辛さだけが感じられて、肝心の香りが立たないからだ。

「胡椒の量は、胡椒挽きをガリガリガリと3回転させるくらい。思ったよりも少ないと感じるでしょ?」。あくまでも、主役は豚肩ロースの持つ旨味や香り。これを引き立てるのが、胡椒の香りなのだ。

「僕が若い頃は、日本にはエスビーのテーブル胡椒くらいしかなかった。でも、ここ20年ほどで加速度的に粒胡椒や粗挽き胡椒が普及しました」とシェフ。若い料理人にとっては当たり前にあるものでも、「僕らの世代の料理人は、胡椒に対してとても慎重です」。入れすぎたら、味はもう元に戻せない。だから店の若いスタッフには、「(胡椒は)考えて使え。なぜ胡椒を使うのか、その必要性と加えるタイミングを考えて使うことが大切だ」と口を酸っぱくして言っているという。

ポークソテーのつくり方

材料材料 (1人分)

豚肩ロース厚切り肉1枚(200g)
1.6g
オリーブオイル小さじ2
黒胡椒適量(粗挽き)

1塩をふる

豚肉は室温に戻す。両面に塩をふり、肉に塩分が浸透して表面に水分が浮いてくるまで10分ほど置く。

塩をふる

2フライパンで焼く

フライパンにオリーブオイルを入れて強火で熱し、盛りつけたときに上になる面を下にして豚肉を入れる。

フライパンで焼く

3両面ゆっくりと焼く

肉から出た脂をレードルですくって肉の表面にかけながら、下の面がこんがりしたおいしそうな色になるまでじっくり焼く。肉をひっくり返して、同様に脂をかけながらじっくり焼く。

両面ゆっくりと焼く
両面ゆっくりと焼く

4余分な脂を取り除く

下の面においしそうな焼き色がついたら、キッチンペ ーパーでフライパンに出た余分な脂を取り除く。

余分な脂を取り除く

5黒胡椒をふる

黒胡椒をガリガリガリと3回挽いて、肉にふる。

黒胡椒をふる
胡椒は仕上げ間際にふって、香りを生かす。

6香りを立たせる

裏返してさっと焼く。肉の中心あたりを指で押し、弾力があれば焼き上がり。バットなどに取り出し、切ったとき肉汁が流出しないよう少し置いて落ち着かせる。

香りを立たせる

7仕上げる

食べやすい大きさに切って皿に盛り、バットに残った肉汁をかける。

仕上げる

8完成

豚肉からじんわりあふれる肉汁に、しばし恍惚。塩が素材の味を引き出し、終盤にふった胡椒が香りと辛味をプラスして引き締めます。

完成
谷シェフの考える「塩」の役割とは
塩は味つけのためというより、素材の味を引き出す役割。肉の重量の0.8%が基本(人間の体液は塩分0.7%)だが、脂の多い肉は少し多めに。塩をふったらしばらく置き、浸透圧で肉の表面に水分が出てくるまで待ってから焼く。

教える人

谷 昇

谷 昇 「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフ

1952年東京生まれ。都内のレストラン勤務、二度の渡仏などを経て、1994年に「ル・マンジュ・トゥー」を開店。現在オーナーシェフとして日々、厨房に立つ。お気に入りの胡椒挽きはプジョー製。「ツール・ド・フランスのファンだからね(笑)」。

文:佐々木香織 写真:鈴木泰介

※この記事の内容はdancyu2017年9月号に掲載したものです。