ムニエルは、小麦粉をまぶした食材を油脂で加熱する料理。クラシックで身近な料理でもあるが、たっぷりのバターを使ってきちんと焼き上げたムニエルのおいしさは格別。いつまでも余韻をありありと思い起こせ、幸せな気分に浸れるほどだ。バターづかいの達人「ナベノイズム」の渡辺雄一郎シェフに、あなたのムニエルを劇的に変身させるその真髄を教わる。
舌平目/ウシノシタ(牛の舌)とも呼ばれる平たい楕円形の魚。今回は、日本の舌平目より身が厚く大型のドーバーソールを使用。ムニエルには、身が厚くふっくら仕上がるドーバーソールか、的鯛、鮭、鱒、帆立の貝柱などがおすすめ。
指先に塩少々(分量外)をつけ、茶色いほう(表側)の皮を頭の先に包丁を入れてめくり、少しずつはぐ。1/3くらいはいだら、尾に向かって一気にはぐ。 返して、白いほう(裏側)の皮も同様にはぐ。表側を上にしてまな板に置き、頭と内臓を一緒に斜めに切り落とす。
尾は先から7~8cmのところで切り落とす。流水で全体を洗い、残った内臓や血合いを除く。まわりのヒレをえんがわごと、キッチンばさみで切り取る。※切り落としたヒレは、魚だしなどに利用できる。切り落とした断面に出ている小骨を切り取る。
舌平目 | 1枚 |
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塩 | 適量 |
白胡椒 | 適量 |
薄力粉 | 適量 |
強力粉 | 適量 |
すましバター | 大さじ1 |
胡麻油 | 大さじ1(白) |
発酵バター | 適量 |
レモン | 1/2個 |
舌平目はキッチンペーパーで挟んで、しっかり水気を拭き、両面に塩をやや強め、白胡椒は控えめにそれぞれふってなじませる。
身が厚いところには塩を強めにふろう。
薄力粉と強力粉を同量ずつ合わせ、バットにふるい入れる。舌平目の全面にたっぷりとまぶす。手ではたいて余分な粉を落とす。さらに刷毛で優しくはらって、薄く均一についている状態にする。
薄く均一につけるためにまず、たっぷり粉をつけて。粉のつき具合は、うっすらと身が透けるくらいがベスト。
舌平目に粉をつけたら、すぐにフライパンにすましバター、胡麻油(白)を入れて弱めの中火にかける。すましバターは、ボウルにバター(無塩)を入れ、湯煎でゆっくりと溶かす。そのまま粗熱がとれるまでおき、表面に浮いたアクを除き、下にたまった乳漿を入れないようにしてキッチンペーパーを敷いたザルでこしてつくる。
バターと植物性油を併用して、焦げにくく工夫。
すましバターが溶けたら、発酵バター大さじ1と1/2を加える。溶けて細かく泡立ってきたら、舌平目を表側を下にして、身の厚い頭側から入れる。すましバター、胡麻油(白)、発酵バターの分量は、舌平目の厚みの1/4が油脂につかる状態が理想。フライパンの大きさや形状、魚の厚みによって、焼く際に油脂の量を調整する。焦げにくくするために植物性の油を併用するが、胡麻油(白)を使うのは、コクはありながら、魚やバターの風味を邪魔しないため。
発酵バターで特有の風味と深いコクをプラスしよう。
少し火を弱め、ムース状の油脂の泡で包んでいる状態を保ち、ゆっくり優しく火を入れていく。この状態の温度は約140℃。泡が大きくなって消えてきたら、温度が上がったサイン。その都度、発酵バター大さじ1を加えて温度を下げる。スプーンでムース状の泡をすくい、
主に舌平目の身の厚い頭側にかけながら(アロゼ)焼く。身の薄い尾側は火が強く入りやすいので、控えめに。
バターの泡の中で舌平目を焼くイメージで。アロゼでバターの風味を魚に含ませ、しっとり仕上げに。
時折、舌平目と鍋肌の間にフライ返しをそっと差し入れ、下側にも油脂の泡を回す。途中、温度が上がらないよう、ときどきフライパンを軽く揺する。泡が消えてきたら、発酵バター大さじ1を投入。舌平目に火が通ってきて厚みが増してきたら、フライ返しを差し入れて、裏側をチェック。よく焼き色がついていたら上下を返し、さらにスプーンで泡をかけながら焼く。
裏側にも油脂の泡を回して、優しく火を入れていこう。目安は、おいしそうな焼き色。きれいについたら返してOK。
ムース状の泡が消えてきたら、その都度、発酵バター大さじ1を加え、スプーンで泡をかけながら焼く。フライパンを軽く揺すったり、火からはずしたりして温度を下げても。油脂の泡が少し茶色くなってきたら、身の一番厚いあたりに金串を刺し、火の通り具合をチェック
(つくり方1で、あらかじめ金串を刺して生の状態の感触を覚えておくとよい)。
細かなムース状の泡が立った理想の温度を常にキープ。金串がスッと入ったら、焼き終わりのサイン。
火が通ったら、フライ返しで金網に取り出す。フライパンは火からはずす。舌平目の表面の味をみて、足りなければ、白胡椒、塩をふる。
冷めないように調味は温かい場所で、手早く!
7のフライパンに発酵バター大さじ1を加え、茶色い固形物(舌平目から出た旨味など)があれば取り除き、弱めの中火にかける。塩、白胡椒各少々をふる。バターが溶けて泡立ち、香ばしい香りが立ったら、火からはずす。レモンを搾って汁を加え、サッと混ぜて軽く詰める。器に舌平目を盛り、ソースをかけて完成。
ここからは仕上げ。バターを焦がしてソースに。最後のレモンのひと搾りが味をグッと引き締める。
ムース状の油脂の泡で包んで丁寧に加熱した舌平目は、輝くよう。ふっくらとした身は、きちんと火は通っていながらもやわらかで、バターの香ばしくコクのある風味を含んで陶然とする味わいだ。つけ合わせは定番の蒸したじゃがいも、レモン、パセリがおすすめ。じゃがいもはフォークでつぶして、焦がしバター香るソースにからめて一緒にどうぞ。かつては殺菌の意もあってパセリが添えられたという。
1967年生まれ。辻調理師専門学校、同フランス校卒業。日仏の名店で研鑽を積んだ後、恵比寿「シャトーレストラン ジョエル・ロブション」のエグゼクティブシェフを務める。2016年、浅草・駒形に「レストラン Nabeno-Ism(ナベノイズム)」開業。
文・遠藤綾子 写真・今清水隆宏
※この記事の内容はプレジデントムック技あり!dancyu「バター」に掲載したものです。