
ブイヨンから手づくりしたビーフシチューは、まさにご馳走の味わい。じっくりと煮出した牛のエキスと野菜の甘味が口内でとろける肉と合わされば、この上ない口福が訪れます。特別な材料は必要ありません。丁寧に時間をかければ、あなたのビーフシチューはさらに進化します。
ビーフシチューの味の決め手は煮込むソースにあり!世のレシピにはよくそう書いてあります。
では、そのソースはどうやってつくられるか、知っていますか?
まず、焼いた牛の肉や骨、鶏ガラにトマトペースト、野菜、赤ワインを加えて煮込んだ贅沢なブイヨンと、小麦粉をバターで炒めたブラウンルウを合わせてコトコト煮込んだブラウンソース(ソース・エスパニョルとも)をつくります。
これをベースに、さらに肉や骨、野菜を足しては煮込んで漉す、また足して煮込んで漉す……を繰り返したソースが、デミグラスソースです。

「シチュー」という言葉が現れたのは1300年頃で、その語源はフランスの古語エテュベ(éstuver)です。現代語では蒸し煮するといった意味で使われています。煮汁を煮詰めて小麦粉でとろみをつける調理法は、17世紀に登場したラグー(ragoût)が原型。このラグー式のシチューが、文明開化とともにイギリス経由で日本へやってきたと思われます。
ビーフシチューに使うデミグラスソースは、シチューのほか、オムライス、ハヤシライスといった洋食屋のメニューに受け継がれ、より濃厚にとろみがあるものへと進化してきました。
本家フランスではこの重たすぎるソースは時代遅れとして姿を消しつつあるのに、日本では今もデミグラスソースを7日間かけてつくる店があります。あの食欲をそそる、深いとび色をしたつやつやのソースは、日本という島国でガラパゴス化した料理なのです。

さて、家庭で7日間はさすがにむずかしいですが、今回は2日間かけてブラウンソースでビーフシチューをつくるレシピを考えてみました。ソースの構成要素を理解して、基本のつくり方を覚えましょう。
1日目はブラウンソースづくりです。
A〜Dのすべてができたら、少し冷ましたブラウンルウに赤ワインを加えてのばし、ブイヨンと野菜ピュレを混ぜ合わせ、煮詰めていきます。
ここまでで、市販のものより格別に深い味わいなのですが、ひと晩寝かせることで、味にグッと一体感が出ます。こうした組み立てを頭に入れておくと、足したり引いたりの応用をして、一部をインスタント食品に置き換えたりと、手間を省くことができます。

2日目は、具材にする肉や野菜をブラウンソースで煮込む仕上げ。
野菜はにんじん、じゃがいも、ぺコロス(小玉ねぎ)、いんげんを使いましたが、マッシュルームやブロッコリーも定番の具材です。
見た目の美しさも仕上がりの印象を決めるので、ひとつずつ丁寧に下ごしらえしましょう。

プロセスを分解すると、それぞれの目的がわかりやすいですよね。よく見れば、特別な材料は何もありません。じっくり丁寧につくることで、料理人がつくったようなビーフシチューが必ずでき上がります。手間と時間をかける価値のあるひと品です。
ぜひ、手づくりビーフシチューを味わってみてください。
| A ブイヨン | |
|---|---|
| ・ 牛すね肉 | 500g |
| ・ 牛すじ肉 | 100g |
| ・ 野菜くず | 適宜 |
| ・ ローリエ | 1枚 |
| ・ 塩 | ふたつまみ |
| ・ サラダオイル | 適量 |
| B トマトピュレ | |
| ・ トマト水煮缶 | 1缶 |
| ・ 砂糖 | 大さじ1 |
| C 野菜ピュレ | |
| ・ セロリの茎 | 1/2本 |
| ・ にんじん | 1本 |
| ・ 玉ねぎ | 1個 |
| ・ にんにく | 1片 |
| ・ サラダオイル | 適量 |
| D ブラウンルウ | |
| ・ 小麦粉 | 50g |
| ・ バター | 50g |
| ・ 赤ワイン | 150ml |
| E 具の野菜 | |
| ・ にんじん | 1本 |
| ・ じゃがいも | 1個 |
| ・ ぺコロス | 6個 |
| ・ いんげん | 1パック |
| ・ バター | 5g |
| ・ 塩 | ふたつまみ |
牛すね肉とすじ肉は4cm角に切る。フライパンにサラダオイルをひいて中火で焼く。肉の両面に焦げ目がついたら鍋に移し、フライパンに水20mlを注いで焦げを溶かし、鍋に入れる。


ローリエ、にんじん、玉ねぎ、セロリの葉といった野菜の切れ端と塩、水2000mlを1の鍋に加えて強火にかける。沸いたらアクをとり除き、弱火にして4時間煮る。肉を取り出し、ブイヨンを濾して野菜を取り除く。



トマト缶と砂糖を鍋に入れて中火にかける。焦げないようにフライパンの底から混ぜ合わせ、水分が飛ぶまで煮詰める。


にんにくはつぶす。にんじん、玉ねぎ、セロリは乱切りにする。サラダオイルを熱した鍋で中火にかけてじっくり炒める。野菜に焼き目がつくようになったら500mlの水を加えて、弱火で2時間煮込む。


3と4を合わせて、ミキサーにかけ、裏濾しする。
さらに鍋で2/3の量になるまで弱火で煮詰める。


ぬれ布巾を用意する。バターを鍋で中火にかけ、溶けたら小麦粉を入れて炒める。茶色く色づいてきたら弱火に切り替えて、12分ほど濃い茶色になるまで炒める。焦げ茶色まで色づいたら、ぬれ布巾に鍋底を当てて、焦げないように冷やす。
6の粗熱がとれたら、赤ワイン、ブイヨン、野菜ピュレを加えて中火にかける。20分煮詰めてから塩、胡椒で味を整えてひと晩寝かせる。




にんじんはシャトー切り。じゃがいもは皮を剥き、適当な大きさに切る。ペコロスは皮を剥き、いんげんはヘタを切り落とします。
ブラウンソースに1日目に煮込んだ肉とペコロスを入れ、やわらかくなるまで30分ほど煮る。

じゃがいもといんげんはそれぞれ5分ほど水からゆでる。にんじんは鍋に入れ、ひたひたになるぐらいの水とバター、塩をひとつまみ加えて水分がなくなるまで蒸し煮する。


最後にシチューの味を見て塩、胡椒で味をととのえる。皿にシチューと野菜を盛りつけてでき上がり。


文:有賀薫 写真:キッチンミノル