食欲の秋。根菜の旨味と香りがグッと増してくる時季です。野菜の魅力をたっぷりと味わえる「けんちん汁」はいかがでしょうか。ひとつひとつの食材を丁寧に下ごしらえをして、滋味深い味わいに仕上げるつくり方をスープ作家の有賀薫さんが披露します。
秋の香りがすると、根菜がおいしくなるシーズンですね。
今回は根菜をおいしく食べる和のスープ「けんちん汁」をつくってみましょう。
けんちん(巻繊)とは、もともと野菜や椎茸、麩や豆腐を炒めて油揚げで包んで揚げたり、炒めてあんかけにした料理のこと。
江戸時代、中国から日本に渡って黄檗宗(おうばくしゅう)を開いた隠元(いんげん)によって広められた、普茶料理(ふちゃりょうり)のひとつです。具材の顔ぶれはどことなく豚汁にも似ていますが、精進料理なので、肉が入るとけんちん汁にはなりません。
けんちん汁は、野菜と豆腐を胡麻油で炒めるところからつくり始めます。
私が母から教わったのもこのやり方でした。ただ、豆腐を炒めようとすると、どうも鍋肌にひっついて扱いにくいのです。それで、自分がけんちん汁をつくるときには、最後に入れるようになりました。
油で炒めるのは水分を抜くことが目的だととらえ、豆腐を後入れするときは水分をしっかり抜いてから加えるようにしています。こうすることで汁が水っぽく薄まらならないようにします。
豆腐はさておき、けんちん汁のおいしさといえば、種類豊富な根菜のハーモニーではないでしょうか。大根、にんじん、ごぼう、れんこんなどの根菜を炒め合わせてから昆布だしを加え、野菜から出た旨味と合わせて、再び野菜の中に染み込ませます。
そのために、野菜をよくよく油で炒め、水分を抜いておくことが大事です。ちょっと固いけれどもう食べても大丈夫、というぐらいまで野菜を加熱していきます。
胡麻油を使うのは、普茶料理の名残り。くせのないサラダ油でももちろん大丈夫です。
大根やにんじんなどの野菜はいちょう切りにするのがポピュラーですよね。
でも、全部の食材を同じような形に切りたいなら、野菜によって大きさが定まらないいちょう切りはあまり得策ではないように思います。
今回は根菜類を乱切りで切っていきます。乱切りのメリットは、角度や切り取る大きさを変えることで、食材の大小にかかわらず同じぐらいのサイズに揃えられることです。にんじんのように、上下で太さが違い、輪切りやいちょう切りでは大きさが変わってしまうような野菜でも、同じぐらいのサイズに切れます。こうして、形を整えて、火の通り具合を揃えるのが、おいしく仕上げるコツ。
ごぼうだけは、味が染みやすいささがきにしましょう。
精進料理ですから、だしもかつおや煮干しなどの動物性のだしは使いません。
精進だしでまず思い浮かべるのは、昆布と干し椎茸。このふたつを合わせて使います。干し椎茸は旨味が強いのですが、入れすぎると全体が椎茸の味と香りに支配されてしまうので、加減して入れること。あとから少し足してもいいぐらいです。
大根 | 300g |
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にんじん | 100g |
生姜 | 10g |
れんこん | 100g |
ごぼう | 1/2本 |
里芋 | 5個 |
木綿豆腐 | 1/2丁 |
こんにゃく | 1/2枚 |
油揚げ | 1/2枚 |
昆布 | 10cm |
干し椎茸 | 2枚 |
青ねぎ | 適量 |
サラダ油 | 大さじ1 |
胡麻油 | 小さじ1 |
塩 | 適量 |
醤油 | 適量 |
昆布を水1.2L(分量外)に入れてひと晩置く。干し椎茸は水で戻しておく。青ねぎは最後に振りかける分だけ小口切りにする。
大根とにんじんは皮を剥き、乱切りにする。 生姜は皮を剥かずにうす切りにする。れんこんは皮をつけたまま乱切りにして、5分水にさらす。 ごぼうは泥を洗い落とし、ささがきにする。ささがきにしたごぼうは水にさらしてすぐザルに上げる。 水で戻した干し椎茸の水気を絞って軸を取り、4等分に切る。椎茸から出ただしは、後ほど使うので取っておく。 里芋は皮を剥き半分に切ってからひたひたの水でゆでる。沸騰して5分ほどしたらざるに上げて、水洗いする。
豆腐をキッチンペーパーで包んで、上に重しをのせて30分ほどおき水分を抜いておく。 こんにゃくは水からゆでる。ひと煮立ちしたら冷水にとって冷まし、2cmほどの大きさに手でちぎる。油揚げは1cm角に切る。
鍋を中火にかけて、サラダ油と胡麻油で大根、にんじん、生姜を炒める。4分ほど炒めて、野菜から水分が出てきたられんこん、ごぼう、こんにゃくを加えて、5分炒める。
昆布だしと干し椎茸のだし大さじ2、塩をひとつまみ加えて、ひと煮立ちさせる。あくを取り除いたら、椎茸と里芋を加えて煮る。
里芋が柔らかくなったら、油揚げと手で崩した豆腐を加える。醤油と干し椎茸のだしで味を整えて、ひと煮立ちしたら器によそってでき上がり。
けんちん汁は仕上がりが優しい味なので、柚子皮や青ねぎをあしらったり、七味などでピリッと辛味を効かせてもおいしいです。案外、胡椒などを加えても、根菜の旨味と相性が良いものです。
――明日につづく。
文:有賀薫 写真:キッチンミノル