dancyu1991年7月号「ビアホールの老舗『ピルゼン』にこだわりの肴ザワークラウトとニシンの酢漬けの奥義を学ぶ」から、多くの文化人が常連客だった「ピルゼン」のザワークラウトとニシンの酢漬けのつくり方を紹介します。
1991年7月号の誌面で、ビアホールの老舗として紹介された「ピルゼン」。銀座にある交詢ビルの一角で1951年に創業し、2001年までの半世紀、文化人のたまり場として親しまれていました。
創業した頃は、第二次世界大戦の爪あとが残る現代日本の黎明期。
「ようやく食の流通が整いはじめ、人々の生活に活気が取り戻されてきた時代だった」と二代目店主の斎藤誠彌さんは語ります。
「ピルゼン」のあった交詢ビルは画廊に囲まれていて、美術エッセイストの洲之内徹さんをはじめとした昭和を代表する文化人が、常連客として訪れていたことで広く知られていました。
銀座へ通っていた多くの画家や写真家たちが、「ピルゼン」でビールを飲みながら熱い談義を交わしたり、ひとり物思いにふけながら、過ごしていたそうです。
小説家の吉田健一さんは『アンソロジービール』(パルコ)に収録されているエッセイの中で、「ピルゼン」の思い出を綴っています。
交旬社の一階で西側になっている所に、ピルゼン・ビヤホオルというのが他の店に挟まれていて、ここで出すボルシチだののロシア料理はビイルの肴にもいいし、それだけで食事にもなる。普通のビヤホオルとは違った感じで食事し、一人でぼんやり飲むのに適している。
「ピルゼン」でビールの肴として人気だったザワークラウトは、1970年に行われた大阪万博で斎藤さんが食べたドイツ料理を、日本人の口に合うよう漬物風にアレンジしたもの。
ドイツではザワークラウトを冷たいまま食べることはまずありませんね。必ず温めて食べますよ。ベーコンやタマネギと炒めてね。その点、うちのザワークラウトは全くのオリジナル。いわばお新香感覚でサッパリ食べてもらおうと考え出したものですから。
当時、斎藤さんは誌面で語っています。
ニシンの酢漬けは、「ピルゼン」開店以来つくり続けていた定番メニュー。塩をして半日おいたニシンを野菜と一緒に酢に漬けたさっぱりとした味わい。口の中でシャキッと感じる酸味は、よく冷えたビールのほろ苦さとの相性は抜群です。
キャベツ | 6個 |
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マジョラム | 50g |
塩 | 50g |
酢 | 900ml |
キャベツを丸ごと洗い、水気を取ったら横半分に切る。5cm角になるようにザク切りにして、芯の部分だけを取り除く。
キャベツをボウルに入れ、マジョラムと塩をふりかけ、最後に酢を加える。
ボウルごと強火にかけ、焦げつかないように混ぜる。キャベツがしんなりしたらでき上がり。
ニシン | 20尾 |
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玉ねぎ | 2個 |
にんじん | 2本 |
レモン | 2個 |
セロリ | 2本 |
唐辛子 | 15本 |
ローリエ | 3枚 |
タイム | 大さじ1 |
ブラックペッパー | 20粒 |
酢 | 900ml |
白ワイン | 1800ml |
塩 | 適宜 |
ニシンの頭を落として内臓をきれいに取り除き、3枚におろす。肋骨を取り除いた身に、皿の上で塩をたっぷりとふりかけて、冷蔵庫で12時間おく。
玉ねぎ、にんじん、レモンは3mmの厚さに輪切り、セロリは斜めに薄切りにして、丸ごとの唐辛子と一緒にボウルへ入れる。ローリエ、タイム、包丁の背でつぶしたブラックペッパーと酢、白ワインも加えて、12時間ねかせる。
塩漬けしておいたニシンを酢(分量外)でよく洗い、表面の塩を洗い落とす。
下準備2で漬け込んだ野菜を半分ほどバットに並べる。野菜の上に1を並べ、その上に残りの野菜を並べる。漬け汁も入れ、ニシンの表面が白くなるまで2日間ほど漬け込んだら完成!
写真家の木村伊兵衛さんも足繁く通った「ピルゼン」のビールの肴。日本人の口に合うようにアレンジしたドイツとスウェーデンの伝統的な料理は、毎日食べても飽きない酸味が効いた味わいです。ぜひ、お試しあれ。
1930年、東京都生まれ。1951年、日本製鐵から譲り受けた倉庫で父が「ピルゼン」を開店。自身も大学に通いながら店を手伝う。大学卒業後、本格的に店で働きはじめ、1964年に父に代わって二代目店主となる。2001年、交詢ビルの建て直しをきっかけに、多くの人に惜しまれながら「ピルゼン」を閉店する。
写真:大井一範