長崎の美味は、ちゃんぽんだけにあらず! 魚、野菜、肉と、豊かな自然が育む良食材が目白押しの長崎県。まだ見ぬご馳走を求めて、長崎県の3つの街を旅しよう。まず訪れたのは長崎市。長崎人にとって魚といえば、トロリと柔らかなマグロよりも、プリッと身が引き締まった白身や青魚らしい。飲食店が連なる県内随一の繁華街・思案橋エリアで、魚料理を発見。
まず訪れたのは、ニューヨーク・タイムズ「2026年に行くべき52カ所」に選ばれた長崎市。出島、グラバー園、軍艦島といった観光名所をさておき、食いしん坊は数多の店が連なる思案橋へと引き込まれる。なんとも色気のあるこの名前は、かつて存在した丸山遊郭へ行く途中、男衆がここで「行こうか、戻ろうか」と思案したことに由来するそうだ。
ちゃんぽんやカステラを食べたい気持ちは重々承知だが、長崎は五島列島や対馬といった豊かな漁場に恵まれた街。だから“海鮮”は絶対に外せない。脂の乗った真アジや、プリプリのヒラス(長崎の方言で「ヒラマサ」のこと)は鉄板で、新鮮かつ、身が締まっているほどおいしいとされている。

「甲田食堂」は鮮魚店直営の店で、昼は海鮮の定食を、夜は居酒屋として刺身や地酒を味わえる。鮮魚店は店から徒歩2分。当然、店で使う魚の鮮度はお墨付き。
「長崎人は熟成させたマグロのような柔らかい魚より、プリッと硬い魚が好きなんです」と言う店長の濵田賢也さんは、鮮魚店に8年勤めた魚のプロ。長崎の人は食感で魚を選ぶのか。面白い。

昼の一番人気、アジフライ定食には、朝獲れたばかりの真アジを使う。おっしゃる通り、新鮮な真アジは身の密度がギュッと詰まっていて、味が濃い。サイドに付いたヒラス、鯛、ヒラメの刺身もしっかりと歯ごたえがあり、淡白な身に九州ならではの甘い醤油がよく合う。白身がメインといえども、夜メニューの刺身盛り合わせには近海でとれる中トロやカツオも入っていて、こちらもしっかりと美味だった。「魚屋がケチったら格好悪いですから」と、しっかり厚切りなのもうれしい限り。リクエストすれば薄めにも切ってくれるそう。



夜は創業53年の酒場「安楽子」へ。壁に掛けられた木札のメニュー、古い戸棚に骨董品。この雰囲気だけでもう呑める。この店の客の99%は、大将が目利きした刺身を目当てに訪れる。長く店をやっているからこそ、魚屋も優先的に良い魚を回してくれるという。
「入荷した魚は全部触って、鮮度や脂ののり具合を確かめます。先代の親父がそうしていましたから」と二代目店主の松本真一さん。魚の目利きは父からしっかり受け継いだ。
本日の海鮮が並ぶガラスケースを見て、まず目に留まったのは真アジ。漁師が一本釣りしたもので、パンッと張った身が見るからにおいしそうだ。短冊切りにして、ねぎと生姜を和えて出す。しっかりと弾力があり、噛めば脂と旨味がじわじわ広がる。ふと隣を見ると常連さんが「僕もここのアジが好きで」と微笑む。兄さん、わかります。酒は「安楽子」で定番の地酒、「杵の川(きのかわ)」の特別純米を冷酒で。キリッと淡麗な味わいが、刺身と呑むのにちょうど良い。


もう一つ食べておきたい名物がある。長崎は鉄火巻きに使う魚も白身。だから通称“白鉄火”と呼ばれている。「安楽子」ではヒラスを使い、有明海産の香り高い海苔で細巻きに仕立てている。これがまた、コリッとした白身の食感と、海苔の濃い香りの塩梅がよろしくて、さらに日本酒が進んでしまう。
さて、二軒目はどうしようかな。スナックで長崎弁のママと壱岐焼酎を呑もうかな。こうして思案橋の夜は更けていく。
一般社団法人長崎県観光連盟
※お店の最新営業情報は、各店舗へお問い合わせください
甲田食堂
【住所】長崎県長崎市銅座町14-6 名店ビル2階
【電話番号】095‐800‐1350
【営業時間】11:30~14:00(L.O.)、17:30~22:00(L.O.)
【定休日】日曜
大衆割烹 安楽子
【住所】長崎県長崎市浜町7-20
【電話番号】095‐824‐4970
【営業時間】17:00~21:30(L.O.)
【定休日】日曜、祝日
文:井上麻子 撮影:大塚淑子