長崎の美味は、ちゃんぽんだけにあらず! 魚、野菜、肉と、豊かな自然が育む良食材が目白押しの長崎県。まだ見ぬご馳走を求めて、長崎県の3つのまちを旅しよう。今回訪れたのは雲仙市。雲仙市では、この地で代々受け継がれてきた「在来種野菜」を栽培する生産者が増えている。土地のテロワールを映し出す唯一無二の味わいは力強く、その味に魅了された料理人も活躍中。雲仙市で育まれる在来種野菜に出合える直売所「タネト」と、レストラン「ヴィッラ デル ニード」を紹介しよう。
地面から湯気が上がるのを見て驚いた。島原半島の中心にそびえるのは、雲仙普賢岳などの火山群。海底のマグマが熱源となり、小浜温泉や雲仙温泉がこんこんと湧き出ている。まちを歩いていると、足裏から大地のエネルギーが伝わってくる感覚がした。

いま雲仙には、昔ながらの“在来種野菜”を育てる農家が集まってきている。先駆者となる農家の存在もしかり、火山活動によって堆積したミネラル豊富な大地が、おいしい野菜を育ててくれるのだ。
「タネト」は、店から半径20km以内の生産者がつくる有機野菜を販売する直売所で、多いときは100品種ほどの野菜が並ぶ。なかでも興味深いのが、農家が自家採種で種をつなぎながら栽培する在来種野菜だ。


「同じ土地で種をとり続けると、種が風土を記憶していくんです。良くできた作物の種だけを継いでいくので、野菜の質もどんどんアップデートされていく。食べると凄さがわかります」とオーナーの奥津爾さん。また在来種野菜の種を継ぐことは、日本の食を守ることにもつながると彼は語る。
「今は野菜の種も9割が海外産。もしも輸入が止まったら、農業も止まってしまいます。タネトはおいしい野菜を届ける場所であり、手の届く範囲で作物を流通させて、日本の種を守る大切さを伝えていくための場所でもあるんです」


「タネト」で野菜を買い込んで、小浜温泉にある宿「蒸気家」へ向かう。温泉の蒸気を利用した蒸し釜で、野菜を蒸して食べることができるのだ。
日本で一番熱い105℃の温泉が湧く小浜温泉。もうもうと立ち上がる湯気で蒸したせいろを開けると、いも類はホクホク、なすや玉ねぎはトロトロに仕上がっていた。味つけは温泉塩で十分。野菜本来の甘味や味わいがぐんと引き出されていて「在来種野菜には生命力や味の豊かさがある」と言っていた奥津さんの言葉が浮かぶ。
蒸し釜は日帰り入浴客なら誰でも利用できる。近くのスーパーで肉や魚を買って持ち込んでもいい。この土地で育まれた食材を大地の力で調理するという、本当の意味でここでしか味わえない食体験だった。


島原半島の有明海側にあるミシュラン一つ星のレストラン「ヴィッラ デル ニード」には、在来種野菜に向き合う料理人がいる。
「徒歩圏内に自家採種で在来種野菜をつくる「竹田かたつむり農園」という生産者さんがいて。彼の野菜に出会って、食材の伸びしろを料理することが僕の仕事だと気づきました」と吉田貴文シェフ。
コースは季節の野菜から発想した料理で構成。玉ねぎは瑞々しい甘さを、ズッキーニは爽やかな青い香りを引き立てるように、多彩な食材を組み合わせて、細かく香りや食感を添えていく。


「在来種野菜は同じ野菜の種を継いでいくので、毎シーズン収穫できる品種は同じ。毎年同じ食材に向き合いながら、年ごとのわずかな変化を感じ取って、料理も小さなアップデートを重ねていく。そういう料理をやり続けられたらいいですね」
雲仙の美食たちは、舌で感じるおいしさの先に、自然と人の営みが透けて見えるものだった。


一般社団法人長崎県観光連盟
※お店の最新営業情報は、各店舗へお問い合わせください
オーガニック食材直売所 タネト
【住所】長崎県雲仙市千々石町丙2138‐1
【電話番号】0957‐37‐2238
【営業時間】10:00~16:00
【定休日】水曜
ヴィッラ デル ニード
【住所】長崎県雲仙市国見町多比良甲313‐2
【電話番号】0957‐73‐9713
【営業時間】木曜、金曜の12:00~15:00(閉店)土曜、日曜、月曜の18:00~22:00(閉店)
【定休日】火曜、水曜
文:井上麻子 撮影:大塚淑子
※文中の岩崎さんのお名前の漢字「崎」は、正しくは“やまへんにたつさき”です。ブラウザ上で正しく表示されない可能性があるために「崎」と表示しています。