
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2026年夏号では、「ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ」や「マードレ」を営み、アマゾンカカオを使った料理やスイーツが大人気の太田哲雄さんに軽井沢エリアのとっておきを案内してもらいました。
「ゆったりして趣きのある空間はハレの日にぴったり。親を招いたときや目上の方との会食などにおすすめできる一軒です」と太田さんが挙げたのは「草如庵」だ。場所は軽井沢から車で1時間ほどの東御市。近くを千曲川が流れる豊かな自然に寄り添うように、そっと奥ゆかしく木の看板が立てられている。
「駐車場からの長いアプローチも素敵なんですよ」という太田さんの言葉にも頷くばかりだ。葦の池に架かるのは細い木の橋。たどっていくと手入れの行き届いた庭が現れ、一角にはかつては農機具置き場だったという東屋も。さらに歩みを進めると、築およそ160年の豪壮な古民家の入口に到着する。広い三和土で靴を脱いで上がれば3間に分かれた客席はすべてがテーブル席に。凛としながら穏やかで、どの部屋からも庭の緑を満喫できる。


店主の山田勉さんは京都・花背にある「美山荘」出身。野草や山菜、きのこなど山の恵みを主役にした摘草料理をこの地で継承している。そのため日々山に分け入り、ときには川で鮎を獲ることも。
「『美山荘』には何度が訪れていますが、摘草料理を地元で味わえるのが嬉しいですね。山田さんは北海道の『ザ・ウィンザーホテル洞爺』にあった美山荘の支店で店長をされていたのですが、僕は20代の頃、食事に行ったことがあるんです。あのときの料理をつくっていた方が長野でお店を開かれたというのは感慨深く、どこか縁を感じます」(太田さん)
コースの内容は毎月替わるが、いつも太田さんが目を見張るのは八寸だという。「いくつもの小鉢に旬が盛り込まれ、一品一品丁寧につくられている。味付けも上品です。軽井沢界隈は意外に日本料理の店が少なく、あっても値段が高くて。その点でもありがたい存在なんです」(太田さん)
開店して13年。何か変化はありましたか? と尋ねると、「きのこを採る腕が上がりました」と微笑む山田さん。そんな穏やかな言葉を聞くと四季折々に訪ねたくなる。




長野県白馬村生まれ。イタリア、スペイン、ペルーで通算10年以上の経験を積む。2019年から軽井沢に拠点を構え、レストランのほか食堂兼売店「マードレ」を運営。アマゾンで出合ったカカオの普及にも力を注ぎ、自身でも多彩なスイーツを開発。
文:上島寿子 写真:鈴木泰介