
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2026年夏号では、「ラ・カーサ・ディ・テツオ オオタ」や「マードレ」を営み、アマゾンカカオを使った料理やスイーツが大人気の太田哲雄さんに軽井沢エリアのとっておきを案内してもらいました。
目印はドアの横の小さな表札だけ。雰囲気は隠れ家ながら、予約は半年先まで一杯という人気店が、軽井沢駅から車で7分ほどの「鳥嵩」だ。開店したのは2020年だが、今や軽井沢の別荘族御用達。この店を目指してわざわざ東京などから訪れる人たちも多いという。

店主の土屋慶典さんは修業経験をもたず、ホテルの和食から赤提灯の居酒屋まで幅広く経験するなか、独学で焼鳥の技術を培ってきた。
「地元の軽井沢で腕を磨いた土屋さんは、いわば “地産地消”の職人。東京に出なくても成功できる素晴らしいロールモデルです」と太田さん。
その情熱の根底にあるのは焼鳥への愛なのかと思いきや、土屋さん曰く、「実は鶏肉は苦手なんです。だからこそ、自分がおいしいと思える調理法を探究し続けています」


コースで繰り出される焼き鳥は紛れもなく日々の探究の成果だ。「一品一品に驚きがあり、創意工夫を感じます」と太田さんも太鼓判を押す。
たとえば、鶏の皮はあえて焼かずに香味野菜と茹でて臭みや脂っこさを除去。薄切りの大根とともにポン酢で食べれば、ピュアな甘味が広がる。土屋さんおすすめの信州の地酒 “山三”との相性もバッチリ。
甲斐路軍鶏を使ったもも肉の焼き方も意表をつく。1枚を丸めて串を打ち、時々休ませながらじっくり炭火にあてるから、噛む度に香ばしさとジューシーさが渦を巻く。




「コースの〆は鶏だし茶漬けが定番ですが、そこに至るまでいかに食べ疲れせずにおいしく召し上がっていただくかを考えて緩急をつけています」と土屋さん。モットーは「次の日も食べたくなる味」。予約が殺到するのも当然だろう。

長野県白馬村生まれ。イタリア、スペイン、ペルーで通算10年以上の経験を積む。2019年から軽井沢に拠点を構え、レストランのほか食堂兼売店「マードレ」を運営。アマゾンで出合ったカカオの普及にも力を注ぎ、自身でも多彩なスイーツを開発。
文:上島寿子 写真:鈴木泰介