
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2026年夏号では、軽井沢で「ラ・カーサ・ディ・テツオ・オオタ」「マードレ」を営み、アマゾンカカオを使った料理やスイーツが大人気の太田哲雄さんに軽井沢エリアのとっておきを案内してもらいました。
今回の案内人、太田さんが営む「ラ・カーサ・ディ・テツオ・オオタ」があるのは湖を中心に広がる別荘地“軽井沢レイクニュータウン”。そのタウン内の“NAGAYA”と呼ばれる区画に2年前、オープンしたのが「MANO」だ。
オーナーシェフの西本竜一さんは森をフィールドにする料理人。週に数回、北アルプス山麓に通い、山菜やきのこなど季節に応じた食材を採取している。
その収穫を調理するのは薪火グリルだ。燃え盛る炎を操りながら四季折々の自然の恵みを調理する光景は、プリミティブ・キュイジーヌという言葉がしっくりくる。



「西本シェフは子供の頃から山遊びが好きだったというだけに、すごく楽しそうに山の食材と向き合っているところがいいなと。30歳になったばかりとのことですが、年々スケールアップしていて若いエネルギーに頼もしさを感じます」と太田さん。

料理はデザートを含め14品前後のコース一本。この日はたらの芽やこごみなどの山菜が創造力に満ちた一皿になった。なかでも、思わず見惚れてしまったのは“苔を喰む鮎”だ。芹や山菜の粉末を混ぜた苔には小さな喰み跡まで再現されている。静岡の安倍川近くで育った西本さんの原風景がモチーフになっているとか。
「夏になるとよく鮎獲りをしていたんです。この時季は苔がむした川の丸石に鮎の喰み跡がついていて、それを表現したいなと思って」(西本さん)
調理法はワイルドながら皿の上は繊細にして叙情的。そのギャップにも魅了されてしまう。




コースの締めくくりは、スペインで薪火調理を学んだ経験からパエリアが定番。もちろん、薪火で炊き上げるのだが、燃料の木材をここでチェンジする。
「通常は火持ちのよいナラを使うのですが、パエリアには浅間山麓など地元の山林に多いカラマツを選んでいます。すぐに燃え尽きるのでコストパフォーマンスはよくないけれど、強火にしたり弱火にしたりと火力の調節をしやすいんですね。それに森を管理するためには適切に伐採をして、その樹木を資源として生かしていく必要もある。需要の少ないカラマツをどう使っていくか、僕なりのアプローチがパエリアでの利用だったんです」(西本さん)
この日、カラマツで炊き上げられたのはうこぎと蛤のパエリアだ。米の一粒一粒に山と海の香味ギュッと詰まり、ずっと噛み締めていたいほどの味わい深さ。パエリアは米を味わう料理だと実感できる。
「日本ではパエリアというと海鮮をどっさり入れたものが知られていますが、本来は米を味わう料理。スペインの食文化が息づいているところも西本さんの料理の魅力です」(太田さん)




長野県白馬村生まれ。イタリア、スペイン、ペルーで通算10年以上の経験を積む。2019年から軽井沢に拠点を構え、レストランのほか食堂兼売店「マードレ」を運営。アマゾンで出合ったカカオの普及にも力を注ぎ、自身でも多彩なスイーツを開発。
文:上島寿子 写真:鈴木泰介