一年中飲むよ!「日本酒イベント」カレンダー
出色の日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK(クラフトサケウィーク)」@六本木――10年で、延べ150万人が楽しんだ!その卓越した魅力とは③(日本酒イベントカレンダー/2026年4月)

出色の日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK(クラフトサケウィーク)」@六本木――10年で、延べ150万人が楽しんだ!その卓越した魅力とは③(日本酒イベントカレンダー/2026年4月)

2016年から六本木ヒルズアリーナ(東京・六本木)で開催されてきた日本酒の祭典「CRAFT SAKE WEEK」が、今年で10周年を迎えた。主宰は、元プロサッカー選手の中田英寿さん。日本酒の可能性と課題を考え抜いて毎年ブラッシュアップを続け、今や、他に類をみない魅力的な日本酒イベントとなっている。 同イベントの開催10周年を機に、このイベントについて中田さんの話を聞き、3回にわたって紹介する連載。最終回はこの10年の変化と、今後への展望を中心にお送りする。

「日本酒の価値を再定義し、可能性を広げるプラットフォーム」として、10年かけて進化を重ねてきた

今年で10回目となる日本酒の祭典「CRAFT SAKE WEEK」。イベントを主催するJCSC代表の中田英寿さんは、10年をどう振り返っているのだろう。
「CRAFT SAKE WEEKは、試飲イベントではなく『日本酒の価値を創造し、その可能性を広げるための文化プラットフォーム』という位置づけで回数を重ねてきました。毎年、改善を重ね、詳細なデータを取って、蔵元の皆さんにフィードバックするようにするなど、運営フォーマットを考えながら進めてきました。様々な点で進化してきたと思いますし、ある程度、形はできたかなと考えています」と、10年の成果を語る。

具体的な成果として中田さんは、まず、日本酒をあまり知らない層や若い年代の来場者が増えたこと。また、海外から訪れる人の中でも、ディストリビューター(流通小売業者)やインポーターなどが増えたことを挙げる。
「思っていた以上に、若い人が多く来てくれています。若い人は日本酒を飲まないと言う人もいますが、ここでは20代、30代の人たちがたくさん来て、日本酒を飲んで、楽しんでいる。日本酒の新しいファンを開拓し、次のマーケットを“深掘って”いかないといけないと思ってやってきましたが、うまく機能してきました。その点は成功していると言っていいと思います」。

「日本酒の新しいファンを創造するために、大きく寄与していることは間違いありません」と語るのは、「十四代」で知られる高木酒造(山形県)15代目蔵元で杜氏の高木辰五郎さんだ。CRAFT SAKE WEEKの企画段階から、中田さんの意図に賛同し、協力してきた。
「ヒデさんに出会ったのは15年ほど前だと思います。高木酒造を訪ねてくださったのですが、話を聞いて、ヒデさんの伝統文化に対する考え方に共鳴しましたし、頂(いただき)をめざす、ぶれない生き方にも感銘をうけました。その後も、何度も会い、会話を重ねるほどに自分との価値観の近さを感じ、意気投合してしまったんです。
ヒデさんが、日本酒や食文化を国内外に広め、伝統文化を未来へ継承する活動を目的とした会社を設立し、目的実現の一環としてCRAFT SAKE WEEKの開催を企画していると聞いて、全面的に協力したいと思いました。伝統文化を担う一員として、微力ながら僕も力を尽くしたいと思ったんです」。

中田さんも、高木さんの造る酒やその姿勢に敬意を払い、CRAFT SAKE WEEKでは初年度から「チーム十四代の日」という特別枠を設定。今年26年には最終日に「頂を究める、チーム十四代の日」とタイトル名のついた日に、入手困難な限定酒が出品され、大いに集客に貢献していた。

会場
オープンエアの会場で開かれる日本酒イベントには、DJが入り、トークセッションも行われるなど、音楽やステージイベントも毎年アップデートを重ねている。来場者の約6割は20代~30代、約1割が外国人と、それまで日本酒には縁がなかったような層も気軽に訪れている。

CRAFT SAKE WEEKで、出品される日本酒の変化について尋ねると、中田さんは以下のような見解を語った。
「近年、市場の日本酒は、レベルが底上げされ、味わいの幅が広がり、“クラフトサケ”と呼ばれる従来の日本酒の範疇には属さない新しいタイプのお酒も登場しています。このイベントで出品されるお酒も全体として品質が高くなってきましたし、多彩になってきた。トレンドとしては、低アルコールをめざす蔵が増えていると思います。
出品されるお酒が多彩になったのは、蔵元の意識の変化もあると思います。開始当初は、通常の市販酒を3種出品する蔵がほとんどでしたが、近年では、高価なお酒や、このイベントだけのオリジナル限定酒を出す蔵が増えてきました。僕としては来場者に楽しんでもらえるように、出品する3種の値段やバラエティーを考えるように依頼していますし、出品するお酒を選ぶ参考になるように売り上げの詳細なデータをフィードバックしてきました」。

出品される酒が多彩になれば、来場者が自分好みの味に出会える確率も上がる。その結果、日本酒の価値に気が付く人が増え、マーケット拡大にもつながるだろう。

「年々、進化させてきた」と中田さんが言う運営フォーマットについて、「十四代」蔵元の高木さんは「細部まで考え抜かれている。感動ものです」と称賛する。
「たとえば、出品蔵を決定する試飲会。プロのように吐き出す試飲ではなく、一般の人にも入ってもらって、喉を通して(飲んで)選考していると聞きました。私は、喉越しは味わいの大切な要素だと考えています。選考は大変だと思いますが、一般の方々が、本当に美味しいと感じるお酒を選ぼうという姿勢に感銘を受けています。
会場でのお酒の管理の仕方も見事です。バックヤードでは常にコンテナで-5℃でお酒を保管し、各ブースにも-5℃の冷蔵庫が完備され、氷の準備なども万全。私たち酒蔵が命懸けで造ったお酒を、完璧な温度管理で、香りや味をそのまま伝えようとしている。ヒデさんのポリシーを基に、改良を重ねながら、理想を具現化しようとする姿勢には頭が下がります。
日本酒は海外へ輸出されるようになっていますが、輸送時の温度管理など問題は山積みで、海外のお客様は劣化した状態で召し上がっていることが多いのが現状です。海外から来たお客様が、ここで私たちの日本酒を召し上がって、本来の味を堪能する。その体験から日本酒の価値に気が付き、日本酒が世界へ広がるきっかけになればと思います」。

日本酒
「回を重ねるうちに、高額商品や限定酒を出品する蔵が増えてきた」と中田さんが言うように、シュワッと微発砲タイプのうすにごりや、他ではグラス売りされないレアな日本酒も味わえる。

高木さんは、今後の取り組みについても言及している。
「この10年で日本酒界を取り巻く環境は大きく変わりました。日本酒の消費量は減り、蔵元の数は激減しています。しかし、量の面では減っている一方で、量から質への移行が進んでいる。造り手も、飲む側も、美味しさを求めるという姿勢が際立ってきているように思います。若い造り手が増え、彼らは情報交換をしながら、切磋琢磨している。それぞれが自分の作品を競い合う時代になっていると思います。蔵元にとってCRAFT SAKE WEEKは、ほかの酒蔵のお酒を味わえる場でもある。どんな味だろうとドキドキしたり、あの造り手はこんな酒を造っているんだ!とハッとさせられたり。厳選された料理を味わえる場でもありますし、打ち上げでヒデさんが連れて行ってくれる店は、どこも飛び切りの名店で、しかもこの10年すべて違う店でした。そんな食の体験は次の酒造りに生かすことができる。すべてにおいて新たに気が付くことがたくさんある場です。
我々、蔵元は“国酒”である日本酒の価値を再認識し、広めていく責任があると思います。日本酒は“伝統的な酒造り”として、和食とともに、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。これからもヒデさんとともに日本酒を伝統文化として発信していきたいと思います」。

「NIHONMONO おつまみ&スイーツ」ブース
会場には、「NIHONMONO おつまみ&スイーツ」ブースも開設。中田さんが全国を巡る旅の中で出逢った、日本の素晴らしい伝統文化や産業を厳選して発信する「にほんもの」プロジェクトの物販ブースで、お酒に合う「おつまみ」と「スイーツ」、「日本茶」などラインナップを厳選して提供した(写真はJCSC提供)。
来場者
来場者
世界中の日本酒ラバーと会える! 唯一無二のイベントです
初年度から毎年、ほぼ毎日、CRAFT SAKE WEEKに来場しているという公務員と元会社員の海老原成介さん・貴子さんご夫妻は、「これほどお金がかかった素敵な空間で、最高の日本酒を、素敵な人たちと飲めるなんて、ほかにはありません。唯一無二です」と極上の笑顔で話す。
「まず、参加しているどの蔵元も、気合が入っている。ここでしか飲めないお酒もあって、蔵元さんのチャレンジ精神を感じます。どのお酒もハイレベルだから、きっと、蔵元同士、いい刺激になっているんでしょうね。世界中の日本酒ラバーと会えるのも、ほかとは違うところですね。バスケットボールのナショナルチームのメンバーや、ニューヨーク在住のフォトグラファーともここで知り合いました。10年通っているので、サポートスタッフとも顔見知りになってしまいましたよ。ここにいると、ホームに帰ったような気分になれるんです」。

近年、世界的な和食ブームだ。インバウンド客が増えたことで、ますます和食人気はヒートアップしている。日本酒には追い風になるだろう。
「そうですね。和食人気に伴って、日本酒の市場もこの10年で世界へと広がりを見せてきました。しかし、アルコール消費が世界的に減っていくなかで、日本酒はどうやって生き残っていくか。どうやって世界市場にアピールするか。蔵元は、これからは味わい以上に、流通や情報発信、価格問題を考えなくてはいけないと思います」と中田さん。
CRAFT SAKE WEEKは、日本酒を体験し、楽しんでもらう場として、また蔵元がファンづくりをする場をめざして、日本酒の価値を再定義し、可能性を広げる文化プラットフォームとして、10年かけて進化を重ねてきた。
「でも、まだまだ足りない。六本木以外に、これまで仙台や博多、関西万博でも開催して来ましたが、一緒に取り組んでくださる方がいれば、開催地を広げ、食や工芸、農業などと複合的な活動も考えています。これからも世界に誇る日本の文化の価値と可能性を発信していきたいと思います」。

プロサッカー選手として、海外のトップリーグで日本人が活躍する道を切り拓いた“世界のナカタ”。事業家の道を歩むようになった中田さんの目標は、日本酒の市場がワインのように世界中に広がり、価値ある文化として世界に認識されること。めざすのは“世界”なのだ。
今年のCRAFT SAKE WEEKは大盛況だった。だが、これは最終形ではないはずだ。目標達成に近づくために、来年のCRAFT SAKE WEEKは新たな趣向や、工夫されたしくみを取り入れ、さらにグレードアップした進化形イベントになるに違いない。

会場
平日は15時から22時まで、土日祝日は21時まで、と開催は長時間に及ぶ。訪れた金曜日は、夕闇が迫るにつれて来場者がどんどん増え、仕事終わりの若いビジネスマンやカップルたちで、アリーナは遅い時刻まで賑わっていた。

※文中の高木辰五郎さんのお名前の漢字「高」は、正しくは“はしごだか”です。ブラウザ上で正しく表示されない可能性があるために「高」と表示しています。

文:山同敦子 撮影:伊藤菜々子

山同 敦子

山同 敦子 (酒ノンフィクション作家)

日本酒や本格焼酎、ワインなどの造り手を描く酒ノンフィクション作家。『日本酒ドラマチック』(講談社)ほか著書多数。dancyuWEBで「十四代物語」を連載中。ソムリエ、唎酒師。