
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の平松玄太郎さんが、食いしん坊ゆえに気をつけたい健康について指南してくれるこの連載。前回に続き、テーマは「救急搬送」。どんなときに救急車を呼ぶべきか?について語っていただきます。
さて、令和6年のデータでは年間の救急搬送人員数は6,769,172人で、その内入院が不要であった軽症患者は3,171,350人と全体の46.8%を占めていました。この割合をどうにか減らさないと重症患者の病院搬送時間の短縮につながらない訳ですが、我々医療従事者と一般の方とでは軽症や重症の捉え方が全く異なります。たとえば「頭蓋骨骨折」と聞くと一般の方はかなり驚かれますが、我々からすると「それで済んで良かったなぁ」と思います。逆に「腸に穴が開いている」と説明しても一般の方は「そうですか」くらいの反応ですが、我々からすると「ハイ、緊急手術」となります。
ではどういうケースで救急車を呼べばいいかと言うと、実は救急を生業にしている私ですら、未だかつて体系的に教わったことはありません。また臨床の傍ら、医学生や看護学生への授業も行っていますが、どちらの教科書をみても“救急要請が必要な状態の一覧”といった記載は見当たりません。これは患者個々人の症状や背景によってあまりにバリエーションが多すぎ、一般化された記載が難しいことが原因と考えます。
それでも各自治体がリーフレットなどを作成し、こういう場合は119番通報を考慮してくださいという説明書きをして下さっています。しかしものによってはかなり細かく記載されており、いざ身近な人が倒れた時にこれを読む余裕が果たしてあるかな……?というのが正直な思いです。あまりに限定的な表現をしてしまうと、記載のパターンからはずれた場合にトラブルにつながってしまうため、免罪符として使用されることを考えると表現の範囲を広げざるを得ない背景もあるでしょう。
私が講演などでこのテーマを話す際に用いている合い言葉は「あかい出血」です。10年以上前に東京消防庁が打ち出していたものになりますが、
①歩けない ②顔色が悪い ③意識がない ④出血が押さえても止まらない
この4つの最初の文字を合わせたものです。この状態であれば119番通報してもよい!と覚えると非常にシンプルです。
①「歩けない」
体の不調があっても歩ける患者さんについては、自分の足で病院に行けるかをまず検討してください。医学的な理由で難しい場合は呼んでもらってOKですが、タクシー代を浮かせたいなどの理由は言語道断です。
救急車で搬送されたからといって、優先的に診察を受けられるとも限りません。この歩けるかどうかで重症度を判定する方法は簡素な感じはしますが、現場に医師がいなくてもある程度判断がつくので、災害医療の現場や多数傷病者事案でも頻用される方法です。
また交通事故が起きた際に警察による現場検証が済んだ後、警察が去り際に「一応、救急車呼んどいて下さいね」と言い残したために傷病者がバタバタが済んだ最後に119番通報するケースも散見されますが、本来救急搬送というのは現場検証にも立ち合えないような方が利用すべきと考えます。この類の話はいくらでもあるのですが、今回はこの辺にさせていただきます。もちろんこれらはあくまでも一部のケースであることは強調しておきます。
②「顔色が悪い」
顔色というのはその人の具合の悪さを示す重要な所見です。呼吸状態が悪くて酸素が足りていない場合や、心血管が弱まって血圧が下がっている場合などで見られ、これらはすべて重症です。我々が研修医の先生などに教えることの一つで、「胸が痛いー!」と顔を真っ赤にしてわめき散らしている患者と、「胸がなんとなく重い感じがします……」と青白い顔をしている患者とでは、間違いなく後者の患者さんから先に診なさい、というのがあります。特に普段からよく顔を合わせている身近な人から見て青白く見える場合は、当たっていることが多いです。
③「意識がない」
これは①とほぼ同じ理由で、意識がない患者さんは自分で歩くことができないので、まわりの方が病院に連れていけない場合は必ず救急車を呼んでください。一応声をかけたり体を揺らしたり軽くたたいたりして、ただ寝ているだけや酔っぱらっているだけというのは除外していただくと幸いです。
こういう方が搬送され、特に異常がないことがわかっても、引き取り手がいなかったり家に帰る手段がなかったりしてやむなく入院させた結果、元気になった本人が「自分は入院するつもりはなかった!」とトラブルになるケースは医療従事者ならよく経験します。
④「出血が押さえても止まらない」
出血は押さえないと止まりません。高齢者で血をサラサラにする薬を飲んでいる方はなおさらです。私が子どもの頃は鼻血が出たら鼻を押さえなさいと親や先生から教わっていましたが、最近ではそうでもないのか血をダラダラ流しつづけながら救急車から降りてくる人も珍しくありません。工場などで作業をされている方が機械暴露などでけがをされた際に、動脈を損傷してしまい血がプシューッと噴き出してしまい、本人も周りもビックリしてしまうことがありますが、そんなときも必ず患部を押さえてください。目に見える出血は少なくとも押さえている間は止まります。

注意点としては、他人の血液は何かしらのウイルスなどが混在している可能性があるので、尿や便以上に自分に付着しないように取り扱ってください。つまり自分で押さえる分には素手で構いませんが、他人の血液を押さえる際は、ゴム手袋の着用が必須です。またハンカチやタオルなどを厚くして押さえると圧着力が弱まってしまい、血液が止まっているように見えていたのが実は生地にどんどん吸収されていただけというのもあるあるです。
けがをしがちな職場の方におかれましては、こういうシミュレーションを事前に行っておくのも一次予防と言えるでしょう。数分~十数分間、必死に押さえた結果、血が止まっていれば自分の足で病院に受診してください。いくら押さえても止まらない場合は救急車を呼んで救急隊員に圧迫を代わってもらい搬送してもらってください。これら4つの内容だけでも理解していただければ、救急車の不適正利用は減り、必ずや救急要請1件当たりの到着時間は短くなると確信しております。
今回はまったく食のことを語らずでしたが、参考になりましたでしょうか。お役に立てればうれしい限りです。それでは。
埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock