東京町焼肉最前線!
【学芸大学】オーダーは2回まで。それでも通いたくなる"注文"の多い焼肉店「だいごろう」の圧倒的な肉質

【学芸大学】オーダーは2回まで。それでも通いたくなる"注文"の多い焼肉店「だいごろう」の圧倒的な肉質

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、学芸大学にある、元フレンチシェフが提案する焼肉店「だいごろう」。肉は吉澤畜産、内臓は芝浦ほるもんという、国内屈指の肉卸から仕入れている同店の魅力に迫ります。

銀座吉澤×芝浦ほるもんの反則級焼肉

久しぶりに訪れたら「注文の多い料理店」になっていた。卓上のメニューの裏には「必ずお読みください」と書かれた、ざっと10項目の“ルール”がある。

「席は時間制となります」という一般的な確認事項から「和牛テール焼き、ラムハラミ、センマイ刺し、クレソンナムルは一回目でお願いします」という店の独自ルール。最下段には「メニュー・壁貼りに無い物は提供しておりません。レモン・コチュジャン・酢・ニンニク等も含みます」と書いてある。

「時間制をお願いしているので、準備に時間のかかるメニューは後半にお受けできないんです」、「自分としては味を決めて出していますから」という店主の服部征太さんの言葉は、開店から1年半の間に起きた苦闘を用意に想像させる――。

10項目の“ルール”

2024年の末頃、「フレンチから転身した焼肉店が目黒の方にできたらしい」という噂を聞いた。「肉がうまい」と聞けば期待も高まる。一方で「ナチュラルワインとの合わせも楽しい」と聞くと手放しで喜べなかった。フレンチやナチュールを切り口にした焼肉店にあまりいい記憶がなかったからだ。

杞憂だった。

ベースの味つけはシンプル&ストレート。タレの味はやさしく、塩はビシッと決まり、ホルモンの味噌ダレは奥深い。切り出した和牛テールを噛み込めば、濃醇な味わいが口内に膨らむ。

フレンチやナチュールというオプションは、あくまでプラスアルファだが、ハーブがほのかに香るラムや、膵臓ではなく胸腺指定のシビレはふわふわとろり、噛めばクリーミーな味わいが広がる。骨太な焼肉メニューと並び立つ味わいだ。

肉
肉

そもそも肉の土台が違う。正肉は吉澤畜産、内臓は芝浦ほるもんという、関東はおろか国内屈指、焼肉業界からすると反則級の組み合わせだ。

「肉業界が長いんです。いまの『だいごろう』は2年弱ですけど、その前の店から吉澤さんや(芝浦ほるもん先代の)中川さんにはお世話になっています」(店主の服部征太さん)

肉は盤石の布陣だ。店主の服部征太さんは、学芸大学や中目黒や西麻布で焼肉店やステーキ割烹、その他、神戸ビーフ専門ビストロなども手掛けている。

看板の盛り合わせはホルモン、和牛、生ラムの3種。吉澤畜産から届く正肉の「和牛盛り」はS1,500円(4枚)、M1,980円(6枚)、L2,480円(8枚)となっている。

肉
この日の和牛盛り合わせは、ブリスケ、ランプ、三角バラ。
肉
この日の和牛盛り合わせは、ブリスケ、ランプ、三角バラ。
肉
この日の和牛盛り合わせは、ブリスケ、ランプ、三角バラ。

ホルモン盛り合わせや生ラムの盛り合わせも同様に3サイズ。内容はそれぞれ日替わりだ。

肉

「いい肉を卸してもらっている。だからいい状態で食べてほしい。となれば、注文ごとのオーダーカットは曲げられません。そうしてお客さんへのお願いごとが増えてしまったんです」

肉を切り出すのは店主一人。対して席数はテーブル3卓+カウンター6席の18席。メディアに取り上げられれば、事情を知らない一見客も増える。ルール設定前は、4人で来て注文のたびに1人前ずつオーダーするような客や、スタッフに威圧的な態度を取る客もいた。

肉

だからこそ「だいごろう」は「注文の多い料理店」になった。卓上のメニューの裏には「ご注文は2回まで」「お肉はできるだけ最初にお願いします」「2回目は、1回目の品数よりも多くのご注文が出来ません」「テール焼き、ラムハラミ……(中略)は1回目でお願いします」など様々な“注文”が書かれている。

伝票
卓番の記された伝票は各卓に。「ご注文は卓上にある複写伝票に追加も含め、ドリンク1杯でも全てご記入下さい」。

「本当はルールとか面倒くさくてイヤなんですよ。でも僕が厨房に張り付く以上、スタッフを守り、いいお客さんへのサービスを担保するルールは必要なんだな、とお客さんに教えていただきました」

2020年には松見坂で神戸ビーフを軸にしたフレンチビストロ「Boeuf SEITA」を立ち上げた。そのとき、料理の土台を強固にする出会いがあった。

「西麻布の頃、常連さんに『第一線のフレンチを学び直したい』と相談したら、『すごいシェフがいる』と長谷川幸太郎シェフをご紹介いただいたんです。フォン・ド・ボーなどソースの基本から盛りつけの考え方まで、何から何まで教えてもらいました」

長谷川シェフは20代でフランスの星付きレストランを渡り歩き、世界的料理コンテスト「ボキューズ・ドール」日本代表歴もある猛者だ。

「KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE」の一皿
毎月1日に2ヶ月先の予約が瞬速で埋まる、東東京の雄「KOTARO Hasegawa DOWNTOWN CUISINE」の一皿。日本で2番目に古い佐竹商店街の一角にある。

その長谷川シェフのサポートを得てフレンチの技術を磨き直した。

神戸ビーフ専門店は好調だった。しかし物件の都合で退去を余儀なくされ、創業の地からほど近い目黒で、「誰もが気安く来られる業態がいい」と焼肉業態へと帰還した。それが「だいごろう」だ。

「フレンチをより深く知ることで焼肉はこうあるべきという固定概念からより自由になりました。「肉をおいしく食べるには」に集中しています。野菜の旨味や甘味、肉の味を引き出して脂を切る加減の酸味は調整し続けています。長谷川シェフのひらめき、アイデア、技術を突き詰める姿に触れて『この熱を焼肉に注ぐことができたら……』と深く考えるようになりました。ベースの肉の味をきっちり決めるのも長谷川シェフの教えです。いい肉だからこそ2種類の付けダレは塩味を控えています。大衆焼肉のような業態だと、『ちょうどいい味』がお客さんによって本当にさまざま。肉自体の味を決めて、ソースで塩味を和らげるような設計を作り込みました」

2種の付けダレの「白」はおろし玉ねぎをベースとした野菜ソース、タレ焼き用の「茶色」は牛骨から取った「フォン」を煮詰めた濃厚な煮ツメのようなソースだ。

タレ

肉の風味をダイレクトに放り込むもよし、ワインやタレとともに無限の桃源郷を追い求めるもよし。

供された極上の肉を七輪で焼く。ハーブ香るラムに焦がしを入れて野趣を楽しむ。銀座吉澤の和牛を優しく炙ってふくよかさを頬張る。赤と白が織りなす芝浦ほるもんの多彩な味わいはどこまでも伸びやかだ。肉はもちろん、店主も店も七輪も、なんなら煙までもが味わい深い。場所は目黒通りの清水交差点近く。

七輪

店舗情報店舗情報

だいごろう
  • 【住所】東京都目黒区目黒本町1‐1‐21
  • 【電話番号】03‐5734‐1166
  • 【営業時間】17:00~21:15(L.O.)、飲み物は~21:30(L.O.)
  • 【定休日】木曜
  • 【アクセス】東急東横線「学芸大学駅」より12分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。