東京町焼肉最前線!
【五反野】白メシを呼ぶ、下町風濃厚タレ焼肉。「昭和焼肉 かたの」の圧倒的多幸感

【五反野】白メシを呼ぶ、下町風濃厚タレ焼肉。「昭和焼肉 かたの」の圧倒的多幸感

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、北千住から車で約5分の「昭和焼肉 かたの」。一口頬張ればご飯が止まらない、気づけばグラスも進んでしまう――そんな幸せなループを生み出す大衆焼肉店だ。家族での団らんに、気の置けない友人とのひとときに。なぜ人々はこの店に惹きつけられるのか、その魅力に迫ります。

仲間と、受け継ぐ焼肉の味

焼肉と言えば白飯だ。ロースターで焼き付けた肉を白飯にバウンドさせ、大口を開けてかっこむ。そんな圧倒的な多幸感が、五反野の「昭和焼肉 かたの」にはある。

「ご飯が進んで、お酒も進む。そんな味を目指したかったんです」

と言って、オーナーの片野秀憲さんは満面の笑みとともにロースと白飯を差し出した。

ごはん

黒毛和牛のリブ芯を切り出した上ロースは、少し濃い目のタレをまとって、てらてらと輝いている。ロースターに牛脂を広げると、ほのかに立ち上る白煙。細いトングをロースの下に差し込んで、一枚をスリットの上に滑り込ませる。

ジュワァアアッという音とともにさらなる煙が立ち上る。焼肉を愛する誰もが歓喜する瞬間だ。

肉

片野さんにとって焼肉は小さな頃から身近にあるものだった。母の姉が埼玉で焼肉店を経営していて、週末には家族で訪れては舌鼓を打った。高校では運動会やお祝いごとのとき、長机にたくさんの七輪を並べて、同級生たちと肉を焼いた。そう、片野さんもいまをときめく朝鮮学校の“三代目”世代にあたる。

「前に連載で取り上げていた1個上の安(龍秀)さんや、同学年の木村(舜徹)くんも言ってたかもしれませんが、朝鮮学校では何かあると必ず焼肉なんです。でも高校生なんてバカみたいに食べるから、さすがに和牛というわけにはいきません。記憶にあるのはこの並ハラミ――輸入牛のサガリなんです。安さんも相方の朴さんとうちに来ると必ずライスと一緒に注文して『懐かしいなあ』って言いながらもりもり食べていきます」

肉
ハラミ1,500円。
肉
ハラミ1,500円。

「幸泉」の安さんとは幼なじみと言っていい間柄だ。小学校の頃に付き合いは始まり、高校時代は同じラグビー部で汗を流した。安さんと朴さんがセンターの12・13番、片野さんは右ウイングの14番を背負った。高校卒業直後、同級生の父が経営する焼肉店で修業を始めたら、同じく同級だった「ここち」の木村さんも同時期に入店、3年後に片野さんが店を卒業するまでの間、ともに研鑽を積んだ。

「特に安さんにはお世話になりました。開業前の準備期間には、幸泉さんの仕込みの合間に手ほどきを受けていました。カウンター越しに勉強させてもらっていたんです。うちのセンマイ刺しは黒い皮をむくためのお湯の温度や漬け込む時間も含めて、ほぼ立石そのまま。赤身角切も幸泉さん譲りです」

肉
センマイ刺し1,200円。
肉
こちらも幸泉譲りの赤身角切1,800円。
肉
こちらも幸泉譲りの赤身角切1,800円。
肉
こちらも幸泉譲りの赤身角切1,800円。
肉
こちらも幸泉譲りの赤身角切1,800円。

肉の仕入れは「幸泉」や「ここち」と同じ原田畜産。タレに対する強い探究心は両店に通じるものがあるが、「かたの」の仕上がりもまたどちらとも違う。幸泉よりもさらに一段下町風味が強い。白飯に合う濃厚な味わいなのだ。

「細かくは肉に合わせて調整しています。とにかく白飯をおいしく召し上がっていただけるように考えています。上ロースや上カルビのようにサシが強い部位には、さっぱり召し上がっていただけるように生姜を強めに。逆に赤身寄りのハラミやサガリには、ニンニクと胡椒を多めにしてパンチを加えます。もちろんメニューごと、その日の仕入れごとに味は調整していますが……。あ、ユッケ焼きも白飯に合います!」

肉
客自身がロースターで炙るユッケ焼き1,500円
肉
客自身がロースターで炙るユッケ焼き1,500円
肉
客自身がロースターで炙るユッケ焼き1,500円

片野さんが目指す焼肉店像は「昭和焼肉」という店名に込められている。

「僕にとって焼肉はやっぱり記憶の味でもあるんです。例えば前菜で出している『ハラミの煮染め』はもう閉めちゃった桶川のおばさんの焼肉店『ミナリ』で出していた『チャンジョリム』のオマージュです。昔ながらの韓国家庭料理なんですが、いまでは韓国料理店でもほとんど見かけません。あの味をどうしても出したかったんです」

肉

和牛の上タンや厚切り上ハラミ全盛のいまとなっては、冒頭の上ロースも昭和の味わいだ。しかしその薄い一片を焼き目香ばしく、かつレアな加減に焼き上げ、つけダレにダイブさせて肉で白飯を巻く。噛むほどに染み出る肉汁の内側で、タレの茶色と脂をまとった富山県産の白飯は甘さを増していく。

ごはんと肉

誰もがなじみのある深紅の卓のガスロースターに、大家族の団らんも受け止める座敷席。いまや失われつつある、焼肉の原風景は千住新橋北詰交差点のすぐ近くにある。

店内
片野さん(右)と、店長の八木尤一さん(左)
片野さん(右)と、店長の八木尤一さん(左)も高校の同級生。大学卒業後広告代理店を経て、福井の名店「韓国厨房セナラ」から神楽坂の「焼肉しんうち」を経由して「かたの」の立ち上げに合流。八木さん特製、締めのユッケジャンスープがめちゃくちゃうまい。

店舗情報店舗情報

昭和焼肉 かたの
  • 【住所】東京都足立区足立1‐9‐2 シティアイ五反野ビル 2F
  • 【電話番号】03‐6826‐9555
  • 【営業時間】17:00~21:00(L.O.)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】東武伊勢崎線「五反野」より10分

文・写真:松浦達也

松浦 達也

松浦 達也 (ライター/編集者)

東京都武蔵野市生まれ。家庭の食卓から外食の厨房、生産の現場まで「食」のまわりのあらゆる場所を徘徊する。食べる、つくるに加えて徹底的に調べるのが得意技。著書に『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)、『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(共にマガジンハウス)ほか、共著に『東京最高のレストラン』(ぴあ)なども。主な興味、関心の先は「大衆食文化」「調理の仕組みと科学」など。そのほか、最近では「生産者と消費者の分断」「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター。