
うまかもんがあふれる福岡において、独創的な鶏皮をはじめ旅してこそ味わえる串焼きを、ひとり飲みでも気ままに楽しめるのが「博多かわ屋」だ。焼酎のお湯割りが最高に映えるおいしさを、一本、また一本、さらに一本と、幸せを噛みしめながら満喫したい。
串に鶏皮をぐるぐると巻いた独特のスタイル串焼きは最近、福岡の名物として少しずつ全国的に広まっている美味の一つ。その元祖の流れを汲むのが、福岡市に複数店舗を構える「博多かわ屋」だ。博多流「かわ焼」と呼ばれる稀なる串焼きは1968年、地元民から愛された今はなき名店「焼とり権兵衛」の主人が考案した逸品だ。その流儀を受け継いで独立し、さらなる工夫と手間を重ねて「かわ屋」を誕生させたのが、創業者の京谷満幸さん。鶏の首のなかでも、薄くやわらかな喉の付け根にあたる部分の皮のみを使用し、串に巻きつけた後、秘伝のたれに漬けては炙る作業が、なんと6日間にわたり繰り返されるのだ。その間、余分な脂は落ち、旨味は凝縮されていくという。
訪れたのは旗艦店の一つ、飲食店が建ち並ぶ福岡有数の繁華街に位置する警固(けご)店。開店早々から賑わう店内でカウンターに陣取り、まずはビールとかわ焼を注文する。タレがしっかりと染みた感がある焦げ茶色の一本は、細長い皮がみちっと一体化。噛みしめれば表面はカリッ、なかはムッチリ、モッチリ、そしてトロリとろけた。ほんのり甘辛のタレがきいた旨味がじゅわあああああっと口中にあふれるものの、味わいはやさしく後味は軽い。ああ、小躍りしたくなる旨さですよ。そして、強く焼酎を呼びますよ。というわけで、「芋のお湯割り、お願いします!」。





長い焼き台にはずらりと串が並び、テーブル席からはかわ焼20本、30本という大量のオーダーも聞こえて悶々。いくらでもいけるよね、これは。でも、ほかの串も食べたい!ひとり飲みにとって串焼きは、少しずつあれこれ食べられるのがなによりだもの。しかも基本、1本からオーダーできるのがうれしい。砂ずり(砂肝)、ハツ、ダルム(豚の小腸)、スジなど順ぐりメニューを追っていけば、口中ジューシー祭り。しかも串焼きの多くは、1本150円少々のお値段。福岡の懐の深さに泣けてくる。
ビール、芋麦米焼酎、ハイボール、ワインなどなど、多数そろう酒類もまた、200円台~500円前後が中心と、古き良き時代に遡ったかのような呑兵衛感涙の設定。加えて例えば焼酎のお湯割りなら、「お湯と焼酎の割合はゴーゴー(5対5)がデフォルト」と太っ腹対応なので、しっかりふくよかに風味が感じられる。旨味が立つ串焼きとの相性も抜群だ。福岡ならねえと興味を引かれた「あまおうサワー」も、おや、まあ、とてもラブリーなおいしさでハートを射ぬかれた。程よい甘酸っぱさが、肉や脂の旨味と絶妙に合うではないか。焼き台に向かって黙々と仕事をこなしつつ、ときにはカウンターからの注文や電話にも対応する、店長・坂本稔さんのマルチタスクぶりも、惚れ惚れしながら酒が進む眺めだ。





串焼きも酒もがんがん進むが、一品料理もまた逃せない美味ばかり。「酢もつ」は手早く出てくるので、串が焼けるまでのアテにうってつけだ。福岡の居酒屋のレギュラー選手ながら店により個性は異なり、この店の酢もつはすっきり軽快に夜の幕開けを彩ってくれる。そぎ切りにした鶏むね肉に低温調理をほどこした、「ムネチー」はレアな食感とそのやさしい旨さに唸り、「豚のあたりめ」なる一品はひと切れだけでも濃密な旨味があふれて、なくなるのが切ないあまりちまちまつまむ。ともに、ちびちびのみ進めるには、最高の友となった。もつ鍋、馬刺し、豚足などなどなど、ほかにも魅惑のメニューは多々ありなので、胃袋に自信のある向きは前進あるのみ。串焼き街道を邁進したい方なら、次回のお楽しみに。
締めには鶏のスープがサービスで出されるが、腹に余裕があれば旨味の海であるそのスープを使った「にゅうめん」をぜひとも。細かく切った「かわ焼」を混ぜ合わせた自家製ラー油をたらりとすれば、これでもう1杯飲めちゃうんじゃない?と煩悩の嵐に包まれるだろう。
白金店が1999年、警固店は2009年に開店し、「博多かわ屋」は現在、福岡市内で6店舗を展開。いずれも海外からの観光客も注目する人気店なので、幸せな夜を確実にするなら予約が無難だ。ふらり訪ねて行く場合、行列ができている場合もあるが、それでも待つ甲斐あり。そして間違いなく、「かわ焼」のとりこになり、深い旨味の記憶にひたりながら次の福岡出張を夢見るはずだ。

文:山内史子 写真:松隈直樹